「三日月がだんだん満ちてきたね〜。」




「ほんとだ、太くなってきた。」




「待って、ダイエット失敗したみたいに言わないでよ。」





そんなことを考えながら彼女の視線の先にある月を見ると、確かに彼女と会った時よりかなり大きくなっていた。





軽くベシッと僕の腕を叩いた彼女が笑う。





「5階になると、月がなんだか近いね〜。」




「そうだね、まあ、地上と比べるとほんの少しだけ。」




「…ふふ、だから小さい頃ずっと高いところに登れば月にいけるんじゃないかって思ってたの。」




「ああ…、沙月ならそう思いそう。」






小さい頃って知らないことで溢れているから、非現実的なことさえできる気がしてくる。





大人になる途中で、僕達は少しずつそのワクワクを失ってしまうんだけれど。





「…どうしても、月が欲しくて欲しくてたまらなくて。私、1回お父さんにねだったの。月が欲しいって。」




「…え?」



「お父さん、ほんっとうに驚いてたからねっ。『沙月の欲しいもの何でも買ってあげる』って言ってたんだけど。」




「そりゃあ、驚くでしょ…、月なんて言われたら。」




「だよねえ。」





ケラケラ笑う彼女が楽しそうに僕の方を向いた。




それを感じて僕も首だけ横に向ける。