「……沙月は、人間だよね?」
「えっ、ひどーい!れっきとした人間です!」
ケラケラ笑って、さっきまでの調子を取り戻して来た彼女が僕の手を握る。
「ね、触れるでしょ?」
「…うん。」
ひどいなぁー、と言いながら笑うと、屋上から出るドアへ方向を変えた。
「さ、すずくん、鍵返しに行こっか。」
「………そうだね。」
僕の先を歩いた彼女を見て、思わず目を見張る。
なんで。
どうして。
君は、…そこにいるのに。
そこに存在している姿があるのに。
どうしてこんなにも儚く感じるんだろう。
どうして、こんなにも。
君が遠くへ行って消え去りそうな幻のように感じるんだろう。
「…月光の姫。」
「…ん?なんか言った?すずくん。」
「…なんでもない、」
長い睫毛を瞬かせて、こちらを見た彼女は確かにそのあだ名が似合う。
まるで、君は月光。
これが謎にあふれた彼女と僕の不思議な関係の始まりだった。


