彼女の手がドアノブにかかる。
その時に、言い忘れていたことを思い出して「あ」と声を漏らした。
「…沙月!」
びっくりしたように振り向いた彼女が僕を見る。
「僕、どうしても沙月に納得できないことが1つだけあって。…月はやっぱり同じだよ。…新月になって見えなくなって夜空から消えても、…また満月で輝いた月に会えるよ。」
僕の言葉に、彼女の動きが止まった。
来月の月は、違う月かもしれないって沙月は前に言ったけど、やっぱりそうは思わない。
…新月になって見えなくっても、月はそこにあって。
また、再び光をもってのぼってくるから。
…まるで人間の生と死みたいに。
だから、きっと。会える。
沙月は一瞬固まっていたけれど、すぐに満面の笑みを浮かべて頷いてくれた。
そして、ゆっくりとドアを開く。
ドアが沙月を中に呼び込んで、スローモーションのように彼女を隠した。