今夜、君に月をあげる。








「…すごく理想が高いとか?」



「別にそういうんじゃないんだよ、好きになった人がタイプだし。そもそも私告白されたことないの。」



「えっ。」




驚きすぎてついに声まで出してしまった。



さすがに沙月が告白されたことがないなんて、嘘だとツッコミたくなってしまう。



でも、本人が照れたように「えっそんな驚かれると逆に嬉しいけど、事実だよ」とはにかみながら言ってる姿から偽りは感じられない。




どうやら真実のようだ。




「さあさあ!じゃあ次すずくんの番〜。」




話を逸らすように大きな声を出して、元気よく言った彼女にハッとして次の質問を考える。




…どこまでが彼女を傷つけずに踏み込んでいい範囲なのだろうか。




さすがに昨日初めて会ったのに、いきなり深い話をさせるなんて重荷すぎる。



と言っても、さっきストレートに学校へ来ない理由を聞いてしまったから今更のような気もするけど。




「なんで沙月はマスターキーを持ってるの?」



「あ、え、そこ?そんなところが気になるの?」




僕の疑問と彼女の安全ラインを譲歩して見つけた質問に、彼女が若干戸惑う。




…僕としては案外気になっていたんだけど。




だってマスターキーなんて先生達ですらいつも持ち歩いている訳ではないし、鳴沢先生に関しては触ったこともないって言っていた。




「…欲しいって言ったらくれたの。ただ、それだけ。」




その瞬間吹き抜けた風が、彼女の長い髪を揺らした。



ブラウスとスカートという組み合わせの夏服が静かに音を立てる。