「だから、すずくん。…逃げてもいいよ。」
「…え…。」
「逃げるなら、今が最後だよ。」
彼女の声は凛としていた。
出会った時と変わらずに黒髪が風にそよいで、同じ色の瞳がまっすぐ僕を見る。
だけど、想像していたよりもずっと早くすんなりと言葉が出た。
「逃げないよ。」
気づいたら、僕も目を少しもそらさずに沙月を見ていた。
沙月にそんな風に言われても1ミリも迷いなんてうまれない。
「僕は、沙月のそばにいる。」
まるで子供みたいだ。
ただの意地のようにも聞こえるけど、でもそれが僕の決意だったから。
彼女は驚いたように少し目を見開いたけど、安心したように顔を緩める。
泣きそうな顔をして、笑っていた。
「…ありがとう、すずくん。…やっぱり私すずくんと出会えて幸せだなぁ。」
「……うーん、もっとイケメンなら良かったって思ったりしない?」
「あははっ、ないよ。だって、すずくんを探してたの。だから、見つけてくれて本当に嬉しかった。」
「…探してた…?」
少し沙月の言葉にひっかるところがあったけれど、「こっちの話」と言われてしまう。
なんだか少しモヤモヤするけれど、さっきの寂しそうな顔と違って吹っ切れた晴れやかな顔になっているのを見ると、まあいいかと思ってしまう。
…彼女のそばにいてこうして夜空を見上げていられるなら、それ以外はもう、なんでもいいのかもしれない。


