今夜、君に月をあげる。








「ねえ、すずくん屋上行かない?私、月が見たい!」



「…行ってもいいけど、昨日新月だったから今日も月は多分見れないよ。」




「え、そうなの。だから昨日見れなかったんだ〜、曇ってんのかと思った。」




それなら早く言って欲しかったな〜、なんて呟く彼女に先ほどまでゴチャゴチャになるくらい考えていた疑問がまた浮かび上がる。




「あのさ、若宮さん…っ」



「沙月。」



「えっ、…」



「沙月って呼んで?私、家族以外に下の名前を呼び捨てで呼ばれたことないから憧れてたの。」




僕が疑問を投げかけようと名前を呼んだ瞬間に遮られて、下の名前呼びを要求してきた。




家族以外に呼ばれたことがないって…、そんなに苗字呼びとかちゃん付けが多かったのか?




仕方なく「沙月、」と呟くと満足そうに無邪気な笑顔が返ってくる。




そのまま制服のスカートを翻して、僕に背中を向けた。





「…屋上行こう、すずくん。私に聞きたいことたくさんあるんでしょ?」




そう言って歩き出した彼女をそっと追いかけた。