「あのね、沙月。」
「…なに、すずくん。」
しばらくしてから、だいぶ泣きやんで落ち着いてきた沙月に優しく声をかける。
「僕は平凡だから、何1つ特別なことなんてできないかもしれない。」
「…そんなこと、」
「ううん、多分そう。…だけど、今まで通り、普段通りに沙月と笑い合うことならできる。」
「…うん…。」
「沙月が送りたかった日常を、僕は一緒に作っていける。…だから、特別じゃないかもしれないけど、平凡な日々を…、一緒に過ごそう。」
ごめんね。もっとかっこいい男だったら、ここで最高の日々にしてやるとか言えるんだろうな。
僕はそんなこと言えないけれど、でも。
残りの日々を沙月と一緒にいたいって気持ちは、負けたくない。
僕の言葉に、また一筋涙を伝わせて。
「…ありがとう、すずくん。…もう十分すぎるくらい特別なこと、貰ってる。だけど、…もっとたくさん、すずくんと一緒にいたい…。」
君は、そう言って綺麗に微笑む。
僕が頷けば嬉しそうな笑顔を見せた。
雲に隠れてばっかりいて見えなかった下弦の月が、この時だけは僕達を静かに照らしていた。