「それで、ここの係り結びはいわゆる強調の効果があるんだけど、何が強調されているでしょう?」




水曜日になっても、一昨日の出来事が頭から離れない。




昨日は屋上へは行かなかった。



…いや、行けなかった。



沙月がいるかどうかも分からなかったし、…僕は、まだ沙月にどう接するべきかを決められていないから。




「じゃあ、鈴木くん。強調されているものを、答えてみて。」




行かないことで沙月が悲しむかもしれないと思うと申し訳なかったけれど、




僕のあやふやな態度で傷つける方がずっと怖かった。





「…起きてる、よね?…鈴木くん!鈴木くん!!」




「あ、はい!」




思わずぼーっとしていて、鳴沢先生の僕を呼ぶ声で我にかえる。




…あ、そうだ。今は古文の授業中だった。




周りを見回すと、ニヤニヤと笑っているクラスメイトが目に入る。




松坂に至っては爆笑しているんじゃないかと視線を向けてみると、意外なことに笑ってはいなかった。




「すみません、ぼーっとしてました。」




不思議に思いつつも鳴沢先生に謝ると、ニヤッと笑みを浮かべられる。




「鈴木くんって、ちょうど国語の提出物集め係よね?今日ちょっと手伝ってもらいたい雑用があるの。ぼーっとしてたお詫びに、どうかなぁ?」



「…あ、はい、手伝いまーす…。」




鳴沢先生って、案外やり手みたいだ…。