“『ずっと願ってた幸せも、当たり前みたいになって気付かなくなっちゃうんだね。』
『うん、…幸せに慣れちゃうとね。』
『あーあ、このままだとすぐに1ヶ月過ぎちゃうんだろうなぁ…。』”
あの時だって、沙月は少し悲しそうな瞳をしていた。
“『…ごめん、その日用事入ってたぁ………。』
『ち、違うんだよ…っ、あの、あまりにもこの写真が綺麗だったから、ちょっと…っ、感動しちゃって…っ。』”
雪花さんから劇の日にちを聞いた時も、コスモス畑の宣伝を見た時も、彼女は固まったり、泣いていた。
…どちらも、10月のイベントだったから。
ああ、僕は僕が嫌になる。
こんなにも沙月との日々の中で、たくさん秘密に気づくものが散りばめられていたのに。
…僕は、ちっとも彼女の苦しみに気づけなかった。
僕は、全然、…沙月のことを知らなかった。
悔しくて悔しくて、唇を噛みしめる。
でもそれだけじゃ足りなくて、拳でベッドを叩いた。
“『忘れちゃうよ。きっと、すずくんは私のこと。すぐに忘れる。』”
…違ったんだ、彼女は確かにいつでも元気だったけれど。
だけど、いつでも寂しさと儚さを兼ね備えていた。