ぐるぐるとひたすらに頭の中を巡るのは、これまでの元気な彼女で。




まさか、こんな真実を想像したことなんてなかったし。





僕は…、心のどこかで彼女だけは、絶対に死なないと思っていた。




どこかで、彼女はいなくならないと安心していたんだ。





だって、笑顔で、華やかで、すぐはしゃいで。





…そこで、はて、と気付いた。




“『私、家族以外に下の名前を呼び捨てで呼ばれたことないから憧れてたの。』”




彼女は、たくさんのことに『初めて』だって言ってた。




僕は、大げさだって何度も言ったけど、病気がちだった彼女はきっとそれは本当に初めてだったのかもしれない。




それがきっかけで、まるで滝のように彼女との思い出が溢れてくる。




“『お願い……、私を、助けて。』”




あの時だって、沙月が死なない能力に怯えているんだって思っていたけど…、実際はもっと別のことに怯えていたのかな。




…僕は、沙月を全然わかってなかった。



沙月が震えている理由すらも分からなかったんだ。





“『私は月と運命共同体だから〜。』”


“『ずっと月があるって保証はどこにもないじゃない。…明日や明後日にいきなり消えちゃうかもしれない。来月が来ないかもしれない。』


『地球の衛星じゃなくなるってこと?』


『そういうこと。だから私は月を目に焼き付けていたいの。いつ消えるかわからないから後悔しないように、今だけの月をしっかり。』”



僕にとっては不思議でたまらなかったこのセリフさえ、今ならわかる気がする。



…そうだ、今月はちょうど真ん中の週が満月で、そこからどんどん欠けていく。




まるで、どんどん死へと近づいていく沙月の人生そのもの。



あんなに“今日”にこだわっていたのも、沙月にはかけがえのない“今日”だったからだ。




ああ、僕はバカなのかもしれない。




いくら平凡だからっていい加減呆れる。