「…だけど、私は嬉しかった。たった1ヶ月でも、すごく元気になれるって思ったら、嬉しくて嬉しくて、悪魔に感謝さえした。…両親は私の症状が良くなってもすごく心配してたから、なかなか外に出れなくて。…だから最初の1週間くらいは、夜に脱け出してたの。」
「…じゃあ、沙月が夜にしか出てこれないって言ってたのは…?」
「うん、両親の隙を見計らって脱け出してたから。一回遅れて屋上に来た時あったでしょ?…あれは、お父さんにたまたま見つかっちゃってね。…でも逆にそれが外出を許してくれるきっかけにもなったんだけど。」
少し泣くのが落ち着いてきた彼女は、さっきから僕の方を見ていたけれどふと上を見上げる。
…今日は、雨だから月はどこにも見えなかった。
「…ごめんね、すずくん。…こんな面倒なことに巻き込んじゃって。…ごめん、こんな大切な人も大切にできなくて。重くて辛いこと秘密にしてて。」
空を見上げていた彼女は、いつの間にか僕に頭を下げていて。
それを僕は「大丈夫、だから。」と言いながらも、どこかぼんやりと眺めていた。
…大丈夫、なわけがなかった。
頭は色々なことで詰め込みすぎて、パンクしそうだ。
暗闇の中、傘に音を立てながら響く雨音が妙に大きく聞こえた。


