今夜、君に月をあげる。







「自分が嫌で嫌で仕方がなくて…っ、たとえ短くてもいいから元気になりたくて、年々強くなっていくこの叶わない思いが、っ、辛くて辛くて…っ!……そんな時、私のっ、夢の中に…悪魔が現れた、の。」




彼女の声が段々小さくなっていく。




震えたか弱い肩は、相変わらず寂しそうだ。




「今年の8月31日…、『たった1ヶ月なら、お前を絶対に死なない元気な体にしてやる。だけど1ヶ月後には必ず死ぬ。』って言われた。そんなことできるはずないってわかってたけど、その時は辛さからとにかく解放されたくて、どうせ夢だからって、悪魔に懇願したのっ…。」




白い傘がゆらりと揺れて、彼女は僕の方を振り向いた。




涙でぐしゃぐしゃなのに、美人に笑って口を開く。




「目が覚めたその日から、私はとびきり元気になった…っ。心臓は痛くなくて、寝てばかりでほとんどなかった筋肉もほどよく付いて、普通の女の子になってたの。夢の悪魔が本当にそんなことをしたなんて私だって、信じられないよっ…、でも、そう信じざるを得なかった…。」





俯いた沙月は必死で笑おうとしてたけど、涙で口元の弧は歪んだ。




僕は、その姿が痛々しくて、思わず手を伸ばしそうになる。




…悪魔なんて、信じられなかった。



だけど、彼女が泣きながら言う姿に嘘や偽りは感じられなくて。




「前にすずくんが私に、死ねないことに心当たりはない?って聞いたでしょ?…私は『わからない』って言ったけど、あれはっ、半分嘘で半分本当…っ、悪魔の仕業かもって心当たりはあったけれど、そんな現実味のないことに確証は持てなかったから、っ…。」





…きっと、当の本人の沙月は、僕よりもずっと“悪魔”の存在に困惑したんだろう。




だけど、信じるしかなかったんだ。