今夜、君に月をあげる。







「何…、言ってるの…。」



「本当、何言ってるのって感じだよね。…でもね、私、夢の中の悪魔に魂を売っちゃったの。それくらい、普通の元気な体が欲しかった。」




急に現実味を無くした回答に、僕はもっと混乱する。




だけど、疲れ切った頭の片隅でぼんやりと「これこそが沙月らしいかもしれない」と思った。




…始まりから、最初から現実味を帯びない彼女だったから。



いつだって、彼女との日々は夢のようだったから。




彼女自身が夢の中の悪魔に魂を売ったと言われても、納得してしまいそうな僕がいる。





「…すずくんは嫌かもしれないけれど、私の生い立ち。聞いてくれる?」




「…うん。」



「私が生まれたのは、5月の月が綺麗な夜だった。だからそのまま、沙月。案外単純でしょう?だけどね、2400gしかなくて保育器に入ってたの。」




少しずつ、少しずつ落ち着きながら、彼女の話に耳を傾ける。




ぼたぼたと、雨が傘を打ち付けた。





「…私は、その時から心臓が弱くてね。何回か小さな体で手術をしたらしい。だけど、いくら穴を塞いでも症状は改善しなかった。…こんなに医療の技術は進歩しているのに、…私の病気は原因すら見つからないの。知ってた?医者ってね、 万能じゃないんだよ。」





僕にいつの間にか背を向けて、話していた彼女の表情は見えなかった。




嘲笑うように、少し諦めにも似た笑いになんだか辛くなる。