ヤツ(いや、たぶん奥さんだな)が部屋をとってくれていたので、俺達はホテルに1泊して帰ることにした。

今、穏やかな初夏の夕暮れの中、ホテルの庭園をノンビリ散歩している。

さっきまでむずがっていたボウズは、燈子の胸の中でやっと眠ったようだ。

俺がスリングごとボウズを受けとると、燈子はフウッと一息をつき、トントンと右肩を叩いている。

片腕に横抱きしたボウズは、ふてぶてしい顔つきで眠っている。

燈子をはじめ女どもは『笑った』とか『可愛い』とか騒いでいるが……

コイツ、俺には1度もそんな顔を見せたことがない。

小さな赤い唇に“チュッ”と軽く口付けると、ものすごく嫌そうに顔をしかめた。

フン、ざまあみろ。
テメエの初チュー、俺が奪ってやったぜ。


愛情表現だと勘違いしたのか、見ていた燈子が嬉しげに笑う。

「エヘヘ…何だか秋人サンは…変わりましたね」
「何が?」

「そういうの、“格好悪い”って、絶対やらないヒトかと思ってましたから。
…結構サマになってますよ?」
 
「な……」
何だか照れ臭い。
からかうように見上げた顔に、平静を装い言い返す。

「当たり前。デキる男は何をやってもキマるんだ」

「……ハイハイ」