「熊野サン…彼ね。
都合の悪い話を黙ってるコトはあっても、こういう嘘は1回も言ったことがないんです。
私はよく彼に嘘を言いますけどネ……」


え、そうなの?


「気持ちは分かるけどね、トーコちゃん。これはサスガに…」

怒りと憐れみの混じりあった熊野の戸惑いに、それまで黙って見ていた板倉愛美が被せた。

「そうよ、バカみたい。
折角手に入れた上玉を、アンタは信じたいんだろうけどさぁ?」

燈子はキョトンと皆の顔を見渡した。
いつもの惚けた調子で、人差し指を口に当てる。

「あれぇ…そおかな。
でもねぇ、何て言ったらいいか…
皆さん?
この中で一番秋人サンのコト知ってるのは私ですよね?
熊野サンよりも、勿論、
愛美ちゃんよりずうっとね?
だから思うんですよ。

私が今、誰より信じるべきは
彼なんじゃないのかなぁ…」

あたかもそれが、当たり前だとでも言うように。

その様は、自信に満ちて揺るぎない。

俺は我慢しきれずに、彼女に一歩を踏み出した。