何をウワサされるか、分かったもんじゃねえ!

先だっての上着のオーバーアクションを後悔しつつ、急いで支度を整えて、階下に降りるべく玄関扉を開けた。


「はい、コンニチワ!」

「な…お前、いつの間に…」

「あんまり遅いから上がって来ちゃった。…人前に出るのに、最低5分はかかっちゃうんだよね?常務サンは」

彼女はチラッと舌を出すと、呆気に取られた俺の脇をすり抜けて、スッと部屋に上がり込んだ。

「待てよ、コラ…」
追いかける俺に構わず奥に進んでゆく彼女。
 
やがて到達したリビングを見回すと、
「何これ…邪魔」
さっき俺が放り投げたクッションを、面白くもなさそうに蹴りあげる。

ああっ、仮想トーコ!

慌てて拾い上げた俺を見て、フフっと悪戯げに笑う。

「おい!」
気色ばんだ俺にお構いなしに、彼女はポッと頬を染めた。

「そんなに恐い顔しないで。オトコマエかが台無しよ?」
「……ぐっ」

彼女はからかうように笑い、それからモジモジと俯いた。