極めつけが……キタ。
 
ドアホンの画面でニコニコと、手を振っている板倉愛美を、半ばウンザリしながら覗く。
年が明けてからは、とんと姿を見せなかったんだが…

「何か用?」
なるたけ素っ気なくドアホンに向かって返す。

「上着よ、ウ・ワ・ギ。困ってたでしょ?返しに来てあげたの!」

いやに明るい甲高い声がインターホン越しに響く。

「別に困ってない。ポストにでも入れといてくれたら後で取りにいく。だから……」

“帰ってくれないか”、言おうとすると、

「ね~え、入れてよ。奥さん、居ないんでしょ?……あることないこと、言っちゃおっかな~?」
不穏な台詞を吐きやがる。

「…好きにすればいい」

何で燈子が居ないのを知ってるんだ。

通話を一方的に切ろうとした。

が……

「あれ。いいのかな~、ロビーで井戸端会議してる奥さん達いるけど?」
「な…んだと?」


インターホンの位置は昨年から、セキュリティの強化のため、一階のエントランス入り口に変更されている。
 
「…そこまで行くから、ちょっと待ってなさい」