しかし……

「…⁉」
「君はいいコだ。
俺の仕事が終わるまではと、その薄着で…寒いのに我慢して……待っていてくれたんだろう?」

俺は、彼女の肩にさっきの自分の上着をそっと掛け、再び身体を離した。

「肩が冷えてる。
寒かったろう、それを着て帰るといい」

ポカンと見上げた彼女に、優しく微笑んで見せる。

「…君のその気遣いや美しさを保つ努力は、既婚のヤマモト補佐役や、人事部長や俺でない、君にとっての本物の誰かにしてやるべきだ」

俺は彼女に背を向けた。
クロゼットから、コートと鞄を取り出し始める。

フッ…キマッたぜ。

そうさ、女だと思うから駄目なんだ。
社員として、ヒトとしての板倉愛美を見て、愛してやればいい。

燈子、俺は自分自身に打ち勝ったゾー‼

自己満足に浸っていた時だった。
 

「…バっカに…すんじゃ………
ないわよ‼」

「…いぃっ…⁉」

女の低い声と共に、全身に激痛が走った。
 
彼女の放った上段回し蹴りが見事に俺の延髄にヒットしたのだ。

「そんな清廉潔白ぶったって、ムダだからね!気障バカ男。
あんたが今更、ミシン針になんか、なれる訳無いじゃない‼」

「ミ……?」

屈辱の涙を隠そうともせず、彼女は
乱暴に扉を開け放すと、
痛みに座り込んだ俺を更に蹴りつけて、駆け出して行ってしまった。

……痛い。