⑦オオカミさんと。溺れる愛の行く先に【番外編も完結】

「ううん、ゴメン。
俺、頼まれてさ…マッちゃんの様子、ずっと親父さんに伝えてたんだ。
出ていく前の大喧嘩、ずっと後悔してたんだよ。『モデルの夢を応援してやりゃ良かったんだ』ってさ。
ね、どうして?
俺にまで黙って姿を消すなんて…
相談してくれたら俺…」


全くだ、俺より先にそっちに行くべきだろうが。

「…………」

彼女が黙りこんでしまったから、それっきり場は沈黙に包まれた。


と、花岡くんが何かを決意したようにぐっと眉根に力を入れ、口をぎゅっと引き結んだ。

力強く彼女の両手を握りしめる。

「……マッちゃんにお願いがあるんだ。
俺を、
お腹の子供のパパにならせてよ」

マツコは俯いたまま首を振った。

「はあ?…何…バカなこと言ってるの。
トシくんは子供の父親じゃないよ?
この子ね、
誰の子供か分かんないんだよ⁉
そんなこと出来るわけが…」

彼は決然と首を振った。

「できるさ。
俺、君の望む背の高いシャレたイケメンなんかじゃ全然ないけど… 
君を想う気持ちだけは誰にも負けないつもりだからさ」

「簡単に言わないで!
愛せないよ…他の男の子供なんか。
虐待とか……世の中にはいっぱいあるじゃん、そんなの私はイヤ……あ…」

言い切りかけた彼女は、真直ぐに見つめる彼の視線に、ハッとして言葉を止めた。


「愛せるよ、マッちゃんの子供だもん。
俺、それだけは自信ある。
ちょうどオヤジさんが…君をそうして育てたように…」
「……っ…トシくん…」

彼女はもう、反論しなかった。

彼の手を握り返すと、怖々と胸に寄り添った。


「…トシくんは、お人好しだから……そゆこと言うと思ったから…だから私は…

あなたから逃げたんだよぉ…」

少女のように震える肩を、彼はぎこちなく抱きしめた。


………
俺としちゃあよ。

このメロドラマを早いとこ切り上げて、さっさと2人とも俺の家から撤退して貰いたいところなんだが。


隣をチラッとうかがうと、トーコはハナミズまで垂らして号泣していた。


全くもって

……カワイイヤツだ。