「ただいま。」

私がそう言うと、奥からお母さんの声が聞こえてきた。

「おかえりー。」

小走りで玄関まで来たお母さんはニコニコ微笑んでいた。

「わざわざ玄関まで来なくても良かったのに。」

「いいのー。私が来たかったのー。」

そう言ってお母さんが無邪気に笑った。

この人、父さんにはもったいないな。

でも、この人がいるだけで前みたいな優しい家庭に戻れる気がする。

「鞄を貸して?部屋に置いてきてあげる。その間に手洗いとうがいをしておいで。」

そう言われたので私は鞄を預け、洗面所に向かった。