「ただいまー」
玄関の重い扉を引きながら発したその声は、誰も居ない家に静かに響いた。ゆっくりと扉を閉めて鍵を架けたと同時に鞄の中の携帯電話が静かに震えた。
開いた携帯のディスプレイに映るのは『お兄』の二文字だった。
―もっとも私の携帯に連絡をいれてくる人といったら、父と兄しか居ないのだから当然と言えば当然だろう。
届いたメールを開くと余程急いでいたのだろうか、変換されないままのひらがなだらけのメールで…
『わりぃ!おれのへやにあるえぷろんばいとさきまでもってきてっ』
「…部屋にあるエプロン…バイト先まで持ってきて…」


