「本気出すなよ。相手はお客様だ」


「わかってますよ。加減くらいできます」


投げなから。


既に6ゲーム終盤で、アベレージ(平均点)は250越えていたが、


2人とも余裕でノーミスだった。


パーフェクト(満点)は300だ。


出来るだけ接戦で、客に花を持たせないと、イベントの意味がない。


「堂々とデートできますね」


うふふ、と


夜勤の小絵が、からかいに来る。


「イケメンくん、いなくなっちゃったんですね。寂しい」


「彼女と、帰ったんでしょ」


山にね、とは言わない。


「えっ!?彼女、いたんですか!?ショックう!えっ??なのに鹿目っちに、あんなに!?」


わざとらしく。そんなことでは堪えない。


心配になった鹿目も、いっときは探そうかとも思ったが、探して見つかるとも限らない。


そして仮に見つけたところで、結局、状況は変わらない。どうすることもできない。


諦めて仕事に打ち込もう。と。


が、


どん!!と音がした。


彪賀が初めて手元を狂わせ、ロフトボールになった上に、ガターになり、ファールのブサーまで鳴った。


動揺しすぎだ。


ロフトボールは、指を離しそこなって一瞬、宙に浮くことだ。


ごまかすように、


「練習だ練習!!」


「はいはい」


「仕事だ仕事!!」


「はいはい」


妙に声を張る。


張り切っているのがバレバレだ。