…それから夜が明けて
椿は静かに目を覚まし
いつものように下に降りていく。
昨夜のことがあって
少々善と顔を合わすのが気まずいと思いながらも
そうはいかない、と
意を決して店の中へと出てみる。
(………あ…。)
店の中に行けば
すでに善は目を覚ましていて、
いつもの定位置から外を眺めていた。
そして足音に気づいた彼が
スッと視線をこちらに向ける。
「…よぉ椿。目ェ覚めたか。」
「…え…あ、おはようございます…!」
何らいつもと変わらぬ様子の善に
椿は一瞬面を食らったように
ボケっとしていたが
彼の声にハッとして そう返す。
(もう…怒ってない、みたい…?)
若干疑惑ながらも
そう思って、椿はすぐに朝食の支度を始める。
しかしそれを止める
善の声がした。
「朝飯は用意しなくていい。」
「…え、どうして…。」
「一緒に外で食べる。
お前も上で支度して来い。」
---------え?
椿は善の言葉に目を丸くして
パチパチ、と瞬きをした。
悪びれる様子もなく
むしろ優しい眼差しをこちらに向ける善に
椿は鼓動をドキッ、と鳴らせた。
…昨日の態度のお詫びだろうか?
一緒に外へ出るなんて滅多にないため
椿は不思議に思いながらも
少し心を踊らせた。
ただ食事に行くだけだというのに
ウキウキして
椿は「はいっ!」と笑顔で返事をすると
そのまま階段を上がって
準備に行った。
そんな椿の様子を見ながら
善は少々愉快そうに
ククッ、と喉で笑う。
そしていつものように煙管を吸いながら
妖美な笑みを口元に浮かべた。