「っ、善様……!!」






椿はその音を聞いて
すぐさま玄関へと向かう。



駆け足でそこまで行けば





---案の定、待っていた人の姿が見えた。








「…よぉ椿。まだ起きてたのか…?」

「善様…!お帰り、お待ちしていました…!」






いつもと変わらない姿に
椿はホッとしながら彼に駆け寄る。


妖しく口角を上げる善に
いつもの彼だ、とホッと胸を撫で下ろし

安心した。






(…良かった、本当に良かった…。)






履き物を脱いで
いつものように中に上がる善。



---だがしかし

椿はその一瞬の時を見て
何か違和感を覚えた。







(…善様……?)







何だか少し

少しだけだが---善の様子がおかしい気がした。




何かを我慢しているような…耐える顔。





笑みこそ浮かべているが

どこか力んでいる様子に
椿は善を一旦立ち止まらせた。







「…善様、羽織りを…取ってよろしいですか…?」

「………。」







椿の問いかけに

善は少々眉間にシワを寄せながら
彼女を見下ろす。



その表情に少々ビクつきながらも

椿は…譲ることなく、善の前に立ちはだかった。






…それからしばらくして

善は参ったという様子で
また笑みを浮かべながら、

観念したように…羽織りを脱いだ。