数日後の放課後。


初めはバラバラだった合唱がだんだん一つになってきていた。
三回合わせた後、少し休憩になった。
トイレに行く者、スポーツドリンクをグビグビしている者。談笑している者。
時間の使い方は自由だ。
そして俺はと言うと、栞とたわいも無い会話だ。

『ねえ、ミヒロ。段々良くなってきてるね』
『そうだな。この調子なら、本番にはいい物になりそうだ』
『ミヒロってさ、飲み込み早いと思うな』
『そうか?自分じゃあんま分かんないけどな』
『自信もってドーンとしていた方がいいよ』

後ろから声がする。

「ミヒロ〜」
「メグか。どうした?」

声を掛けてきたのは新田恵。通称メグ。小学校の頃からの腐れ縁だ。

「実はね、今山下君か指揮してるでしょう。でも、どうしても歌の方に入りたいんだって」
「それで」
「他に頼める人居なくてさ」
「それで」
「委員長がね、ミヒロだったらって言ってるの。どう指揮してみない」

委員長は女子で、メグの友達だ。

「断る」
「そんな冷たい事言わないでよ」
「そんなの頼まれて、はいなんて即答する奴居るか」
「ミヒロは背も高いし、感じいいと思うんだ」
「そう言われてもなぁ。正直そういう人前で目立つのは苦手なんだよな」
「お願い、ミヒロ!」

そう言うとメグは手を合わせ、拝むように頼み始めた。
しかも、栞まで追い立てる始める始末。

『いいじゃん。引き受けたら』
『やだよ、さっきも言ったけど、そういうの苦手なんだ』
『ミヒロの指揮姿、見たいな』

メグが顔を見上げ、とんでもない事を言いはじめた。

「実は、その。これって半分もう決まっていて」
「はぁ?なんだそれ。そういうのはまず本人の了承を得てからだろ。まて、と言う事はこれは規定事項なのか」
「ごめん。ホントごめん。ミヒロならOKしてくれると思って。お願い」

『ほらミヒロ。返事しちゃいなよ』
『やだよ』
『宿題手伝ったのだれだったかな』
『お前って奴は』

外からの生暖かい風が吹き抜ける。
ウルウルしているメグ。ニコニコ顔の栞。

「あー、もういいよ。やりますよ」
「やったー!ありがと、ミヒロ。指揮頑張ってね」

そう告げると、委員長を真ん中にしたグループから小さな歓声が上がった。

『規定事項ね。俺はまんまと乗せられた気分だぜ』
『いいじゃない。それだけみんなミヒロに期待してるんじゃないかな』
『期待ねぇ』
『うんうん。私も期待してるよ』

憎めない奴だよお前は。