栞の笑顔が見たくて

午後。俺は栞と近くのショッピングモールに出掛けた。
所謂ウインドショッピングってやつだ。

栞の目が爛々としている。
気になってる服装の事を聞いてみた。

『栞はいつもブラウスだったの?』
『ブラウスは好きだけど、ワンピも着てたよ』
『後さ、靴履いて無いけど、普段はどんな感じだったの』
『ローファーが多かったかな』

そんな会話をしながら色んな店に出入りしていた。

『俺さ、少し喉が渇いたので喫茶店に入ってもいいか』
と聞いてみた。

『いいよ、行こう行こう』

知り得たい情報もあるし、ちょっと聞いてみよう。

『栞ってさ。仮にもし生きていたら、何年になってるんだ?』
『うーん、大学2年かな』
『逆算すれば、高1かぁ』
『あ、ずるい!そういう誘導尋問は良くないぞ』
『あはは、ごめんてごめんて』

一見デートのように思えるかも知れないが、周りからは俺しか見えていない訳で。
店内に1人でクスクスと笑う様はかなり痛い人に見えただろう。少々いたたまれない。

『そろそろ出ようか』
『うん』

ウインドショッピング再開である。
立ち寄らずスルーするつもりだった本屋を栞が見つけ、『本屋さんに入って 』とお願いし始めた。

何か読みたい本でもあるのだろうか。しかし、どうやって読むのだろう。
店内をゆっくり歩いていると、栞は突然ある本の前で指を指し……

『ミヒロ、これが欲しい。買って〜』

それはなんと、(花と虹)という月刊誌の少女マンガだった。

『これ、俺が買うのか?それにしても、栞にそういう趣味があったとか』
『ね、お願い』

そんな笑顔で言われるとなぁ。断れねぇじゃんかよ。

「ありがとうございましたー」

結局買ってるし。まぁ、栞には助けられてる借りもあるしな。
栞が家路を急いでいるのは、気のせいではないと思う。


※※※※※


帰宅してからが大変だった。
言うまでもない、あの本だ。
俺の横にちょこんと座っている。
言われるがままにページをめくり、うんうんと満足しているようだ。

『栞ってこういうロマンチックなのが好きなんだ』
『だってー、キュンキュンするでしょう』
『お前、大学生だろ、普通なら』
『でも、中身は高1で止まってるからね』

それはそうだが、たまんない奴だな。

『明日もどこかに出掛けるか?』
『それより宿題終わらせないとね』

もしやこいつ、楽しんでやがるな。


※※※※※


そんな時、携帯の着信。誰だろ。大田だ。
そう言えば、あの後大田に連絡してなかったな。

「もしもし」
「あ、俺。あれから身体の具合はどうなんだよ」
「あぁ、大丈夫だ。心配かけたみたいだったな。すまなかった」
「元気なんだったらいいって事よ。あ、そうそう。明日ミヒロの家に行っていいか?
「それは構わんが何の用だ」
「前にゲームソフト貸してくれるって言ってたじゃん。暇だしちょっと行きたいなって思って」
「宿題してるから、あんまり構ってやれんぞ」
「いいって、いいって。そう言えばミヒロ英語はもう終わってるのか?」
「英語なら終わってるぞ」
「ちょうどいいや。写させてくれよ」

なんて奴だ。好きにしろよ。

「いいよ。何時くらいに来るんだ」
「10時にはそっちに着くから。じゃあな」

安易に返事してしまったが、大丈夫だろうか。

『明日、涼が来るんだ』

満面笑みで栞がいう。



あぁ、もう。どいつもこいつも……


※※※※※


翌日。例によって栞のズームアップで目覚めた俺なのだが、これからずっとこういうが続くのか。
などと考えているうちに母さんの呼ぶ声が聞こえた。

「祐也、朝食出来てるわよ」
「はーい」

キッチンには兄貴の姿は無かった。
どうやら既に、ウォーキングに出かけたようだ。

「今日はさ、大田が来るんだ」
「それはいいけど、ちゃんとお礼してるの」
「もちろんな」

昨日の事だけどな。

「ちゃんと宿題するのよ」
「分かってるって」


※※※※※


俺は机で数学。大田は床のテーブルで英語の宿題を写している。
二人の間をニコニコしながら行き来する栞。何とも奇妙な絵づらである。

扉がカチャッと開く。母さんだ。
お盆を手に入ってくる。

「大田君、ゆっくりしていってね」

そう言うと、オレンジジュースが入ったグラスをそれぞれに置き、しずしずと出ていった。

栞は大田が気になったらしく、顔を近づけてはじろじろと見てる。まぁ実の弟だし、興味はあるよな。
そんな時、栞の目が光るかのように、こっちに浮遊してくる。

『チラチラとこっちを見てないで、自分の勉強をするの!』

さながら、熱血家庭教師のようだ。

『はいはい、分かっていますとも』

時々栞の力を借りなからも、宿題はスムーズにはかどっていた。大田は写すだけだから、そこそこに終わるだろうが。


間に昼食をはさみ、この異様な勉強会はその後も続いた。

その静寂を破ったのは、大田だった。

「出来たぞ!」
「おい、そこそこ。(出来た)ではなくて(写した)だろうが」
「いいだろよ。これで宿題全部終了!」

そう言って、大の字になって寝転ぶ大田。
その右手はベッドの下に伸びていた。

「うん、なんだこれ」
「あ!」『あ!』

俺と栞が同時に声を上げていた。

「これって少女マンガだよな。へー、ミヒロにこんな趣味があったなんてな」

大田はニヤニヤ笑いながら、花と虹をペラペラとし始めた。

「あ、あぁ。そうだな。そうそう。それは従姉妹が忘れて行ったんだ」

苦し紛れの言い訳だった。

「ふーん、まぁ大丈夫。俺も男だ。みんなには黙っておこう。武士の情けだ」

いったいあなたは、いつから武士になったたんですか。
それよりも、大田さん。さっきからすご〜く夢中になっていませんか?

「結構面白いもんだな。少女マンガって」

ってかそこ、ハマってんじゃねーよ。そりゃさ、俺も読んだから知ってるがな。

「ミヒロ、これの前の号はあるの?」
「ねーよ」
「ちょっと前のから読みたいんだけどな」
「無い物は無い。だから言ってんだろ。従姉妹の忘れ物だって」
「うーん、まぁいいや。そういう事にしておいてやるよ」


二人の間で、栞がニコニコしていたのは言うまでもない。