(ミヒロへ…
ミヒロがこの手紙を読んでいる頃には、私はこの世から消えていると思います)
消えてるなんて言うなよ。
(私が幽霊になったのは、ある人への復讐心でした。実はその人から乱暴されてしまい。どうしてもその人を許せなくて。どういう風に自分を慰めるか、今でもそれは分かりませんが。その事が原因で、私は海に入水しました)
だから海を見たかったんだ。
(ミヒロには一つ嘘をついています。(ミヒロに始めてとりついた)って言いましたが、実はミヒロの前にそういう人がいました)
「おばさん、この手紙って栞さんが書いたもの…ではないですよね」
「冬に涼と一緒に来てくれた時の深夜に、私が代筆したものです」
「そうなんだ」
(おばあさんにとりついていて、その後この家でミヒロに出会いました。おばあさんには色々心配かけてたと思うけど少なくとも(今の)私はミヒロに出会えて、毎日が充実しています)
だったら消えるなよ…
(リクくんやメグちゃん、中川くん、みゆきちゃん。みんなに出会えて楽しかったし嬉しかったよ。みんな大切な友達。もっとも私の事を知っているのはミヒロだけだけど)
クイズ好きの次は答え合わせかよ。そんな事より会いたいんだって、お前に。
(始めにも言いましたが、この手紙を読んでいるという事は、私は成仏出来たという事になります)
待てよ。じゃあ同好会や俺の事も全て満足出来たって事か?違うだろ。
(ミヒロと出会えて本当に良かったです。今ミヒロは何年生になっていますか?もしかして社会人かな。スーツにネクタイ姿のミヒロにも興味はあります。毎月(花と虹)を読ませてくれた事。ウインドウショッピング、それに海に付き合わせてしまった事。全て私の記憶に留めておきます。この手紙を書いている時点では高校1年生。私がいつまでミヒロと一緒に居てるのかは分かりませんが、大切な思い出を胸に秘めて、この世から消えている事と思います)
お前からとりついておいて、勝手すぎるだろ…
(最後になりますが、出来れば同好会のみんな、そして涼とも仲良くしてくれたらと思います。私からしてあげられる事は何もありませんが、この手紙を私からのプレゼントだと思って持っていてください)
当たり前じゃんかよ…
(それでは身体に気をつけて。大田栞)
しおり…
「三田君、あの子はちゃんと成仏出来ていますよ」
「…どうして…どうして、そんな事が分かるのですか?」
おばさんは、言葉を選ぶように話しだした。
「あの子はね、高校1年の時にこっちの学校に編入してきたの」
「酷い目にあったからですか」
「この家で暮らしだした時は、あれだけ明るかった子がほとんど口をきかなくてね」
「…」
「でも段々打ち解けてきて、明るく話すようになってきたの。でもね、あの子時々二階の窓から空を眺めていた事が度々あって」
「それって…」
「あとから聞いた話しですけど、あの子学校でも誰とも打ち解けていなかったそうなの」
「栞が?まさか」
「あの子はね。おそらく自分が出来なかった事を、三田君に投影していたと思ってるの」
「なぜそうまでして、栞さんは自分を追い込んで…辻褄が合わない」
おばさんの表情が少し変わり、コクっと喉を鳴らした。
「この話しするとあの子に怒られるかも知れないけれど」
緩やかに空気が流れる。俺はおばさんが話し出すのを待った。
「あの子、こっちに来る前に中絶してるの」
「…」
「あの子のお父さんは、訴えると言って聞かなかったらしいのですが、栞が反対してね」
「そんな…」
「そんな事があって、こっちに来る事になったの。こっちに来てからもあの子はあの子なりにやってたと思う。でも」
「じゃあ、環境を変えても栞さんの心は変わらなかった。そういう事ですか」
「ある日、学校から帰らない栞を、近所のみんなで探したの。でも見つからなかった。数日後、遺体で発見されるまで私達はあてもなく探すしかなかったの」
「仏壇がここにあるのは?」
「おじいさんがここに仏壇を置くって聞かなくて。自分のせいだって思い込んでしまってね」
シークレット。そういう訳だったんだ。
「では、その後栞さんが幽霊になってここに居着いたという事ですか」
「私に取り付いた栞は、嘘のように明るくなっていました。どこかに出かける時も、家事をする時もずっと一緒だったんです」
「そんなある日、俺がここに来たと」
「それは私も、そんな事有り得ないって思いましたよ。栞が居なくなる。でもね、何も言わなくてもあの子にはあの子なりの生き方があるって。いつかこういう日が来る事は分かっていました。三田君、あの子と二人で居て楽しかった?」
「…もちろんです…」
「そうよね。だからここを訪ねた。そういう事よね」
「そう…です…」
「でもね、いつまでも栞に縛られていちゃダメなの。三田君は自分の進む道を信じてこれからも生き続けてほしいの。それは栞も同じ事を考えてるはず」
「もう会えないのですか?」
「あなたがここに来た理由は、会いたかっただけではないでしょう。栞の謎を知りたかった。そうよね、間違ってます?」
そうだ。確かにそうだ。栞が隠している事、大田もシークレットにしていた事。
その全てを知らされて、でも正直受け入れられないでいる。
「おばさん、俺またいつの日か栞さんに会えますよね」
「それは分からないです。幽霊が再び降りてくるって聞いた事もないし」
「じゃあ、栞さんはもうこの世には」
「三田君、本来は幽霊として存在してはいけないの。死んではいけなかったのよ」
「じゃあ、なぜ俺に…もう何だか分からないです」
「今は分からなくても、いつか分かる日がくるから、ね」
その口ぶりはまるで栞のそれだと、ふと思った。
栞、お前が居なければ文化祭の成功は無かったんだぞ。お前が居たからバンドのみんなが集まったんだぞ。おまじないもしたじゃんかよ。忘れろっていうのか?都合良すぎるぜ、ったくよ。
思い出が多すぎるんだよ!
「三田君、今日はもう遅いです。泊まっていきます?」
そう言えば、気づけば夕暮れだった。
ここに泊まると、また栞に会えるかも。なんてな。
その夜、俺は二階の窓からの暗い景色を見ていた。
栞、お前何を思ってここからの風景を見ていたんだよ。それも誰にも言わずに。俺はな、ずっと栞の笑顔が見ていたかったんだ。ずっと、そうずっとな。いつか、いつの日か、また出てこいよ。待ってるからな。
そして、眠れぬ夜を明かす事となった。
ミヒロがこの手紙を読んでいる頃には、私はこの世から消えていると思います)
消えてるなんて言うなよ。
(私が幽霊になったのは、ある人への復讐心でした。実はその人から乱暴されてしまい。どうしてもその人を許せなくて。どういう風に自分を慰めるか、今でもそれは分かりませんが。その事が原因で、私は海に入水しました)
だから海を見たかったんだ。
(ミヒロには一つ嘘をついています。(ミヒロに始めてとりついた)って言いましたが、実はミヒロの前にそういう人がいました)
「おばさん、この手紙って栞さんが書いたもの…ではないですよね」
「冬に涼と一緒に来てくれた時の深夜に、私が代筆したものです」
「そうなんだ」
(おばあさんにとりついていて、その後この家でミヒロに出会いました。おばあさんには色々心配かけてたと思うけど少なくとも(今の)私はミヒロに出会えて、毎日が充実しています)
だったら消えるなよ…
(リクくんやメグちゃん、中川くん、みゆきちゃん。みんなに出会えて楽しかったし嬉しかったよ。みんな大切な友達。もっとも私の事を知っているのはミヒロだけだけど)
クイズ好きの次は答え合わせかよ。そんな事より会いたいんだって、お前に。
(始めにも言いましたが、この手紙を読んでいるという事は、私は成仏出来たという事になります)
待てよ。じゃあ同好会や俺の事も全て満足出来たって事か?違うだろ。
(ミヒロと出会えて本当に良かったです。今ミヒロは何年生になっていますか?もしかして社会人かな。スーツにネクタイ姿のミヒロにも興味はあります。毎月(花と虹)を読ませてくれた事。ウインドウショッピング、それに海に付き合わせてしまった事。全て私の記憶に留めておきます。この手紙を書いている時点では高校1年生。私がいつまでミヒロと一緒に居てるのかは分かりませんが、大切な思い出を胸に秘めて、この世から消えている事と思います)
お前からとりついておいて、勝手すぎるだろ…
(最後になりますが、出来れば同好会のみんな、そして涼とも仲良くしてくれたらと思います。私からしてあげられる事は何もありませんが、この手紙を私からのプレゼントだと思って持っていてください)
当たり前じゃんかよ…
(それでは身体に気をつけて。大田栞)
しおり…
「三田君、あの子はちゃんと成仏出来ていますよ」
「…どうして…どうして、そんな事が分かるのですか?」
おばさんは、言葉を選ぶように話しだした。
「あの子はね、高校1年の時にこっちの学校に編入してきたの」
「酷い目にあったからですか」
「この家で暮らしだした時は、あれだけ明るかった子がほとんど口をきかなくてね」
「…」
「でも段々打ち解けてきて、明るく話すようになってきたの。でもね、あの子時々二階の窓から空を眺めていた事が度々あって」
「それって…」
「あとから聞いた話しですけど、あの子学校でも誰とも打ち解けていなかったそうなの」
「栞が?まさか」
「あの子はね。おそらく自分が出来なかった事を、三田君に投影していたと思ってるの」
「なぜそうまでして、栞さんは自分を追い込んで…辻褄が合わない」
おばさんの表情が少し変わり、コクっと喉を鳴らした。
「この話しするとあの子に怒られるかも知れないけれど」
緩やかに空気が流れる。俺はおばさんが話し出すのを待った。
「あの子、こっちに来る前に中絶してるの」
「…」
「あの子のお父さんは、訴えると言って聞かなかったらしいのですが、栞が反対してね」
「そんな…」
「そんな事があって、こっちに来る事になったの。こっちに来てからもあの子はあの子なりにやってたと思う。でも」
「じゃあ、環境を変えても栞さんの心は変わらなかった。そういう事ですか」
「ある日、学校から帰らない栞を、近所のみんなで探したの。でも見つからなかった。数日後、遺体で発見されるまで私達はあてもなく探すしかなかったの」
「仏壇がここにあるのは?」
「おじいさんがここに仏壇を置くって聞かなくて。自分のせいだって思い込んでしまってね」
シークレット。そういう訳だったんだ。
「では、その後栞さんが幽霊になってここに居着いたという事ですか」
「私に取り付いた栞は、嘘のように明るくなっていました。どこかに出かける時も、家事をする時もずっと一緒だったんです」
「そんなある日、俺がここに来たと」
「それは私も、そんな事有り得ないって思いましたよ。栞が居なくなる。でもね、何も言わなくてもあの子にはあの子なりの生き方があるって。いつかこういう日が来る事は分かっていました。三田君、あの子と二人で居て楽しかった?」
「…もちろんです…」
「そうよね。だからここを訪ねた。そういう事よね」
「そう…です…」
「でもね、いつまでも栞に縛られていちゃダメなの。三田君は自分の進む道を信じてこれからも生き続けてほしいの。それは栞も同じ事を考えてるはず」
「もう会えないのですか?」
「あなたがここに来た理由は、会いたかっただけではないでしょう。栞の謎を知りたかった。そうよね、間違ってます?」
そうだ。確かにそうだ。栞が隠している事、大田もシークレットにしていた事。
その全てを知らされて、でも正直受け入れられないでいる。
「おばさん、俺またいつの日か栞さんに会えますよね」
「それは分からないです。幽霊が再び降りてくるって聞いた事もないし」
「じゃあ、栞さんはもうこの世には」
「三田君、本来は幽霊として存在してはいけないの。死んではいけなかったのよ」
「じゃあ、なぜ俺に…もう何だか分からないです」
「今は分からなくても、いつか分かる日がくるから、ね」
その口ぶりはまるで栞のそれだと、ふと思った。
栞、お前が居なければ文化祭の成功は無かったんだぞ。お前が居たからバンドのみんなが集まったんだぞ。おまじないもしたじゃんかよ。忘れろっていうのか?都合良すぎるぜ、ったくよ。
思い出が多すぎるんだよ!
「三田君、今日はもう遅いです。泊まっていきます?」
そう言えば、気づけば夕暮れだった。
ここに泊まると、また栞に会えるかも。なんてな。
その夜、俺は二階の窓からの暗い景色を見ていた。
栞、お前何を思ってここからの風景を見ていたんだよ。それも誰にも言わずに。俺はな、ずっと栞の笑顔が見ていたかったんだ。ずっと、そうずっとな。いつか、いつの日か、また出てこいよ。待ってるからな。
そして、眠れぬ夜を明かす事となった。
