翌朝、俺を起こしたのは栞ではなく母さんだった。

『栞?あれ、栞ってば』

呼びかけに応えるその栞の姿が見えない。

『栞、悪い冗談はよせよ。出てこいよ』

そこにあったのは、ただただ静寂のみだった。

「祐也、何してるの。学校遅れるわよ」
「あ、はーい」


栞の姿が無い。一体、栞はどこへ行ったんだ。
あいつは、俺の周りから離れる事が出来る。
そうだよ。きっとどこかに行ってるんだ。


そんな事を自分に言い聞かせながら、俺は一人学校を目指した。
昨日の奴との事があってからからだ。奴は栞が死んでいる事を知っていた。そしてあいつは「栞が勝手に死んでいった」と言った。

自殺?

まさかと思うが。
しかし、そもそもこの世に未練が無ければ幽霊になんかならなかっただろうし。
それに、昨日の『ありがとう』はなんだ?
俺の前から居なくなるなんてないよな!

そんな事を考えているところに大田が声をかけてきた。

「よう、おはよー」

そうだ、大田に聞けば何か手がかりが見つかるかも。

「あのさ大田。一つ聞きたい事があるんだけど」
「なんだなんだ、やぶからぼうに」
「お前の姉ちゃんって死んだんだよな。どうして死んだんだ?病気か?」
「それはな…」

大田の顔が曇った。やはりそこに何かがあるんだ。

「言えない事もないが、ここはシークレットって言うことで頼む」

そう言うと、さっさと校門に入っていった。
やはり、そこに何かがあるんだ。


※※※※※


俺に出来る事と言えば、学校をくまなく探すくらいだった。
教室。部室。講堂。そしてリク達と出会った中庭。

『どこにも居ない。栞、お前どこへ行ったんだ』

昼休みが終わる頃に、俺は早退する事にした。
帰っても行く所はないが、おとなしく授業を受ける気持ちにはなれなかった。


そうだ、海だ。一度栞が海を見たいって言ってたあの海だ!


あの時、なぜ海に行きたがっていたのかは、今も分からない。でも手がかりになるのはそこしかない。行こう。

二人で行った思い出の海。
しかし、やはりそこにも栞の姿は無かった。

どれくらいだろう、こうやって海を眺めていたのは。
栞の居場所。それは…

そうだ!何でこんな事に気付かなかったのだろう。
栞が俺に乗り移ったあの時、あの場所。
大田の実家だあそこには仏壇もあった。
全てはあそこから始まったんだ。

俺はすぐさま家に帰り、翌日出かける準備をした。