電車の中。栞は窓の外を見ている。と言うか何かを凝視するかのように。
これから何が起こるんだ?皆目検討もつかなかった。
ただ一つ分かるのは、ただ事ではない自体が起きようとしている。これだけだ。
『栞、降りる駅は…』
言いかけた俺を遮るように、栞が口を挟む。
『次の駅で降りて』
もう、言う通りにするしかないか。
改札を抜け、歩いて行った先は駅前通りが広がる賑やかな通りだった。
なんとなく拍子抜けした気分だったが、栞はどんどん前に行く。
『早く、こっち』
あれからどれくらい歩いたのだろう。駅前の通りを抜け、だんだん人気が無くなってくる。
唐突に栞が止まった。その形相はまるで別人のように感じた。
『あの人』
指を刺したその先に、こっちに向かって歩いてくる男性が居た。
『あの人に私の事を聞いてほしい』
『それは構わないが、あいつの事知っているのか?』
『とにかく聞いて』
『分かった』
俺は、言われたその男に声をかけた。
「ちょっと聞きたい事があるのだが、いいか?」
「誰だ、お前。いきなり声かけてきてにしては、随分な態度だな」
「栞という女性は知ってるか」
「栞…ああ、あのイカレ女か。知るも知らないも、俺はあの女のお陰で酷い目にあってるんだ」
「酷い目?なんだよそれ、聞かせてくれよ」
「何で初対面のお前にそんな話しをしなけりゃいけないんだ。俺にとっては人生最大の汚点。あのバカ女のせいで俺は随分な目にあったんだ。これくらいでいいだろ」
「待てよ、栞は何か悩んでいるんだ。もう少し訳を聞かせてくれてもいいだろ」
「悩んでる?冗談も休み休みに言え。あの女は勝手に死んでいったんだ。そりゃ、天国で悩んでいるかも知れないが、俺には何の関係もない事だ。さあ、これくらいでいいだろ」
そう言うと奴はその場を去ろうとする。
無性に腹がたった。
『栞、こいつ殴っていいか?』
『いいよ、任せる』
「お前!」
俺は奴の腕を掴むと拳を顔面に振るった。
が、その拳はあえなく空を切り、そして体勢を崩した。
「いきなりは卑怯だよ。いいか、殴るならこうやるんだ」
そう言うと肘を締め、目にも止まらぬ速さで俺の顔に拳がヒットした。
何が何だか分からなくなった俺は、果敢にも殴りつけようとするが、奴は軽くかわしていく。
「誰だか知らないが、こういうのは俺は好きじゃないんだ」
そう言うと、とどめの一撃が俺の顔面を貫いた。
倒れた俺の髪を掴み、その男が言う。
「栞だろ、大田栞。あの女は勝手に死んだんだ。俺のせいじゃねーよ。ばーか」
それだけ言えば俺の頭をアスファルトに叩きつける。
俺はこのまま死ぬんじゃないか。そう思った時だった。
!!!なんだ!!!
急に身体が軽くなって、まるで宙を浮いたように勝手に起き上がる。
きょとんとしている奴の前に立ったかと思った瞬間、俺の拳は奴のみぞおち辺りをを捉えていた。そして奴はその場に倒れ込んだ。
俺はあまりの突然の事に唖然としていた。
『行きましょう』
『行くって、奴はいいのか』
『急所は外しているから、大丈夫』
やっぱ、お前の力か。
『さ、帰りましょう』
やけに明るく取り繕ってやがる。強がりだって事くらい俺にでも分かるさ。
俺の顔の痛みも服の汚れも無くなっている。もう、栞の力の事とかどうでも良くなっていた。
『明日は部活行くよな』
『もちろんよ』
その(もちろん)は、即答ではなかった。
いや、考えすぎは良くない。いつもと同じように学校に行くんだ。もちろん部活も。
『ミヒロ、ごめんね。こんな事に付き合わせて』
『でも理由は言わないんだろ』
『うーん、そのうちにまた』
『そのうちね。やれやれだぜ』
帰宅後、いつものようにベースを弾いて、インターネットを見て。
そして、栞の顔には笑顔が戻っていた。
俺には、やっぱり栞の笑顔が必要なんだと、心からそう思った。
そんな時栞が一言呟いた。
『ありがとう』
『なんだよ、それ。さっきの奴か』
『ううん、いいの』
『あいつの事も秘密だろ。慣れっこだぜ』
『ありがとう』
これから何が起こるんだ?皆目検討もつかなかった。
ただ一つ分かるのは、ただ事ではない自体が起きようとしている。これだけだ。
『栞、降りる駅は…』
言いかけた俺を遮るように、栞が口を挟む。
『次の駅で降りて』
もう、言う通りにするしかないか。
改札を抜け、歩いて行った先は駅前通りが広がる賑やかな通りだった。
なんとなく拍子抜けした気分だったが、栞はどんどん前に行く。
『早く、こっち』
あれからどれくらい歩いたのだろう。駅前の通りを抜け、だんだん人気が無くなってくる。
唐突に栞が止まった。その形相はまるで別人のように感じた。
『あの人』
指を刺したその先に、こっちに向かって歩いてくる男性が居た。
『あの人に私の事を聞いてほしい』
『それは構わないが、あいつの事知っているのか?』
『とにかく聞いて』
『分かった』
俺は、言われたその男に声をかけた。
「ちょっと聞きたい事があるのだが、いいか?」
「誰だ、お前。いきなり声かけてきてにしては、随分な態度だな」
「栞という女性は知ってるか」
「栞…ああ、あのイカレ女か。知るも知らないも、俺はあの女のお陰で酷い目にあってるんだ」
「酷い目?なんだよそれ、聞かせてくれよ」
「何で初対面のお前にそんな話しをしなけりゃいけないんだ。俺にとっては人生最大の汚点。あのバカ女のせいで俺は随分な目にあったんだ。これくらいでいいだろ」
「待てよ、栞は何か悩んでいるんだ。もう少し訳を聞かせてくれてもいいだろ」
「悩んでる?冗談も休み休みに言え。あの女は勝手に死んでいったんだ。そりゃ、天国で悩んでいるかも知れないが、俺には何の関係もない事だ。さあ、これくらいでいいだろ」
そう言うと奴はその場を去ろうとする。
無性に腹がたった。
『栞、こいつ殴っていいか?』
『いいよ、任せる』
「お前!」
俺は奴の腕を掴むと拳を顔面に振るった。
が、その拳はあえなく空を切り、そして体勢を崩した。
「いきなりは卑怯だよ。いいか、殴るならこうやるんだ」
そう言うと肘を締め、目にも止まらぬ速さで俺の顔に拳がヒットした。
何が何だか分からなくなった俺は、果敢にも殴りつけようとするが、奴は軽くかわしていく。
「誰だか知らないが、こういうのは俺は好きじゃないんだ」
そう言うと、とどめの一撃が俺の顔面を貫いた。
倒れた俺の髪を掴み、その男が言う。
「栞だろ、大田栞。あの女は勝手に死んだんだ。俺のせいじゃねーよ。ばーか」
それだけ言えば俺の頭をアスファルトに叩きつける。
俺はこのまま死ぬんじゃないか。そう思った時だった。
!!!なんだ!!!
急に身体が軽くなって、まるで宙を浮いたように勝手に起き上がる。
きょとんとしている奴の前に立ったかと思った瞬間、俺の拳は奴のみぞおち辺りをを捉えていた。そして奴はその場に倒れ込んだ。
俺はあまりの突然の事に唖然としていた。
『行きましょう』
『行くって、奴はいいのか』
『急所は外しているから、大丈夫』
やっぱ、お前の力か。
『さ、帰りましょう』
やけに明るく取り繕ってやがる。強がりだって事くらい俺にでも分かるさ。
俺の顔の痛みも服の汚れも無くなっている。もう、栞の力の事とかどうでも良くなっていた。
『明日は部活行くよな』
『もちろんよ』
その(もちろん)は、即答ではなかった。
いや、考えすぎは良くない。いつもと同じように学校に行くんだ。もちろん部活も。
『ミヒロ、ごめんね。こんな事に付き合わせて』
『でも理由は言わないんだろ』
『うーん、そのうちにまた』
『そのうちね。やれやれだぜ』
帰宅後、いつものようにベースを弾いて、インターネットを見て。
そして、栞の顔には笑顔が戻っていた。
俺には、やっぱり栞の笑顔が必要なんだと、心からそう思った。
そんな時栞が一言呟いた。
『ありがとう』
『なんだよ、それ。さっきの奴か』
『ううん、いいの』
『あいつの事も秘密だろ。慣れっこだぜ』
『ありがとう』
