『早くー。走って行こうよ』
『お前は浮いてるだけだろうが』
『いいじゃないの、ほら早くー』

俺達は新学期の始まる学校に向かっていた。
俺は2年1組。ちなみに大田、そしてメグも同じクラスになった。
大田といい、メグといい、腐れ縁だな。ちなみに、五十嵐は2組、中川は3組、リクは進学クラスという事で同じ5組だ。
しかし、だ。クラスがどんなに変わろうと、同好会は変わらないからな。
その同好会だが、オリジナルの曲を始めて部の名称も、正式に「ポップス同好会」に変更していた。
リクは「ロック同好会」と言って譲らない勢いだったが、ロックに固めない方がいいという中川の意見が最終的に通ったという感じだ。

『まぁ、俺的にはどっちでも良かったのだが』
『そんな事言って。結局うまくまとめたのはミヒロだったし』
『そうだったっけ』
『部長の威厳ね』
『そんな大層な』
『ミヒロが作った部なんだし』
『おいおい、それはいくらなんでも言い過ぎだぜ。俺と言うよりはリクが作ったようなもんだぜ』
『でも、あの日リク君の居る中庭に行ったのはミヒロだし』
『それはたまたまの偶然だろ』

そう、あれはたまたまの偶然。五十嵐が喧嘩しているところに行ったのも。メグが俺達に興味を示したのも。そして、中川がメグに一目惚れしたのも。
偶然なのか?出来過ぎた偶然だな。もしかして栞、お前の例の技なのか?

『何変な顔してるの。行こうよ』
『あぁ、そうだな』

2年1組。窓からの景色が2階になった事を除けば、教室は大して変わっていない。あまつさえ、1年の時の委員長まで顔を連ねている。

あまり見覚えの無い女性の先生が入ってきた。それぞれが席につき、生徒の顔を覚えるかのように出席を取る。

『女性の先生で良かったねー』
『何だよそれ』
『見て、綺麗な人よね』
『何が言いたいんだ』
『ミヒロって、年上好みでしょう』
『だから何なんだよ。それにだな、そんな年上がタイプとか無いぞ』

顔を近づけてくる栞。

『当てられてどうしよう。ってところかなー』
『突っかかってくるなよ』
『ミヒロ』
『何だよ』
『カワイイー』
『怒るぞ』
『ゴメンゴメン』

ホームルームが終わり、いつものように部室へと向かう。
そしていつものように練習。そう、いつもと変わらずに、だ。
いつもと同じ18時に解散して、それぞれ帰宅の途に。

『今日は(花と虹)の日だろ』
『うん。いつもごめんね』
『いいって事よ』

あれくらいの事で栞が満足するなら安いってもんだ。

『でも、もう部屋に涼は呼べないね』
『あぁそうだな』

あれから着々と俺の本棚にお前の本が並んでるのである。

『なんか、ごめんね』
『いいって。俺も最近な、この続きはって気になってるんだし』
『あはは、ミヒロらしいね』

そうやって本屋に向かっている時にだ。栞が急変したのは。
それは予期しない、そしてまさに俺を絶望のどん底に叩き落とす為の序章であった。