家に帰るととっぷりと夜になっており、そして部員達からの「おめでとう」メールが届いた。
生真面目にも、そのメール一つ一つにに返信している時に着信があった。

五十嵐だ。

「もしもし」
「もしもし、おめでとうございます」
「ああ、おめでとう。今年もよろしくな。ところで電話とか、何か用か」
「今時間あるかな?」
「ちょうど帰ってきたところだが、時間ならあるぞ」
「少し話したい事があるの」

待ち合わせたのは駅から少し離れた公園。
そこは偶然にも、いつか栞と指切りした場所だった。

「よう」
「ごめんね、呼び出したりして」
「いいって事よ。で、話って?」
「そうね、そこのベンチに座って」

俺達はいくつか設置してあるうちの奥のベンチに座った。

「いつか話そうと思っていた事だけど」

軽音部の時の話しだと言う事に気づくのは簡単だった。

「私、彼に裏切られてね。彼とはね、中学の時から付き合っていたの。凄く優しかったの。でもあんな風になるなんてね。途中入部してきたの、その子」
「あの時喧嘩していた相手は、招かざる客だったって事か」
「あの時見たよね、可愛いと言うより大人っぽい子」

『正直それほど顔は覚えて無いが、言われてみればそんな感じか』
『綺麗というよりか、怖いイメージだったかな』

「あの後、音楽を続けるかどうか正直迷ったの」
「そうだよな」
「でも、辞めるなんて出来なかった。夜になればまるで狂ったように地下室でドラムを叩いていたの。その時にね、やっぱ続けようって。それで沖田を思い出して」
「そっか、それでその時俺に出会ったんだ」
「ミヒロに言われた事は、今でも覚えているよ。ドラムでガンガンと、そうよね」

中庭での話しだ。

「あの時私って何してるんだろって。まるでミヒロに見透かされてるみたいでね」
「俺はそんなつもりじゃなかったんだけどな」
「リクや中川、メグちゃんと集まれたのもミヒロのお陰。嬉しく思ってるよ」
「偶然、なのかな」
「偶然でもいいの。こうやって音楽が続けられたら、なんてね。柄じゃないな」
「そんな事無いんじゃないか」

『本当は優しい子なんだろな』
『きっとそうよ。うんうん』

「私思うんだけど、ミヒロのベース。いい線いってると思うな」
「そうか、まだ半年だぜ」
「それがビックリなんだ。ホントに半年?って疑うくらいに」
「おいおい、俺を持ち上げても、何も出ないぜ」
「お世辞じゃないって。それは海斗も認めてるし」
「確かに似たような事は聞いたな」
「言いたかったのはこれだけ」
「それじゃあ、俺も聞いていいか」
「いいよ、何」
「俺達のバンド、これからも上手くなっていくよな」
「もちろんよ。それこそいつか、ぶどーかーん!ってね。
「お前がそう言うとその気になるぜ」

五十嵐がスクッとベンチから立ち上がる。

「じゃあまた、学校が始まったらいつもの部室でね、部長さん」
「ああ、じゃあまた」

そして、五十嵐は振り返る事もなくどんどん歩き、あっという間に消えていった。

『武道館か。五十嵐らしいぜ。ったく』
『今日のみゆきちゃんも、いつもの自由奔放なのも、きっと本当の姿なんだと思う』
『普段はそれこそ(我が道を行く)みたいな感じだけどな』
『それも含めての性格なんだよ、きっと』
『さて、俺達も帰るか』

空からは綿のような雪が舞い降り、いつしか街を白く染めていた。