栞の笑顔が見たくて

いつになく面白い夢を見た。


俺は大田の実家で、栞という名の幽霊にとりつかれたんだ。
そして、心の中で会話したんだ。
しかも、その幽霊は大田の姉ときた。

仏も神もびっくりだぜ。



……夢……だよな……



俺が目覚めたのは、大田の実家でもなく、自分のベッドでもなかった。
白い天井。そこは病院だった。

椅子に座っているのは、母さん。その隣に…え、し、栞?!

それは夢ではなく、確かに起こった事だと認識するに充分に値する現実だった。


「お前どうして!」


思わず声を荒らげて起き上がった。

「お前って何、どうしたの?」

息子の第一声に母さんが驚くのも無理はない。

「あ、いや。変な夢を見ていて」
「とにかく無事で良かったわ。友達の家で迷惑かけたのだから、ちゃんと謝りなさいよ」
「分かってるよ」
「どう、立てる?」

身体はむしろいつもより軽いくらいだ。

「それよりか、家に帰りたいな」
「そうね、看護師さんに聞いてくるから」
そう言って母さんが出ていった。


『良かった、大した事無くて 』
『お前、本当にとりついたんだ』
『そう。でもまだ信じてないでしょ 』
『そうだな、半信半疑ってとこかな 。それはそうと、一つ聞いていいか』
『何?いいよ』
『階段から落ちた時に、一瞬身体が浮いたように感じたのだが』
『あれは私の力。ミヒロを動かすくらいの重力変化は出来るみたい 』
『みたいって。そういう技が他にもあるのか? 』
『あると思うけど、自分でも分からないの 』
『まぁ、そういう技はあまり使わない方がいいかな 』


程なく、母さんが戻ってきた。

「一度先生が診察をしたいって」

やれやれだぜ。
検査して診察して、家に帰った時には夕方だった。


※※※※※


いくつか分かった事がある。

幽霊は人にとりついたら、その人の凡そ半径2メートル以内を浮遊している。
服は着替えない。
もちろん食事もしない。
ちゃんと足もある。靴は履いていないが。
人だろうが物だろうが、すり抜けてしまう。
例えれば、ホログラムみたいなものだ。

そして何より、とりついた人しか意識伝達が出来ないという、縛りのきいたルール。



もう一度聞こう。何故俺なんだ?



『それはさ、仮に私がよその所に行ってれば、 他にもとりつく人と出会えてたかも知れない。だけど、あの家から離れたくなかったの。あの時、ミヒロが階段から落ちるのを助けた時に無意識にとりついてたの』

辻褄は合ってる。

『じゃあ、とりついた事であの家から離れてしまってるけど、それはいいのか? 』
『 うん、いいよ。それは』
『いいのかよ。じゃ、お前は成仏出来なければずっと俺にとりついたままなのか 』
『今は成仏出来なくてもいいよ』

いや、俺は良くないのだが。

しかし、だ。
普通ならカウンセリングの扉を叩いてるか、もしくは発狂していてもおかしくない。
そうならないのは、おそらくは栞があまりにも緊張感に欠けるというか。いや、それでは理由にならない。

とにかく、これだけの事態にも関わらず冷静でいられるのは、俺自身がこういうイレギュラーな事象を期待しているからだろうか。


いづれにせよ。


大田にも誰にも相談出来ないし。
これ、どうすっかなぁ。