大晦日の夜、俺達は五十嵐の家に集まっていた。
テーブルに所狭しと並べられたオードブル。
前々から色々凄いと思ってはいたが、五十嵐の家はやる事が違うな。

メグが言う。

「ミヒロってさ。色々言うけど、結局まとめてしまうんだよね」
「お前らが持ち上げてるんだろうよ」
「でもさ、ミヒロが居なかったら、文化祭の合唱だってどうなっていた事か」
「またその話しか」

リクが口を挟む。

「伝説の人だからね」
「なんか死んだ人みたいで嫌だ」
「あはは」

誰ともなく笑っていた。
栞も同じように。

『栞さ。夏に俺にとりついてから秋を過ぎ、今は冬だ。これからもずっと、そばに居てくれるのか』
『もちろんよ。ミヒロの笑顔を見ていたいからね』
『みんなに教えてやりたいぜ、俺の背中を押してるのは幽霊なんだぜ。ってね』
『誰も信じないからー』

思いついたように、俺はある提案をしてみた。

「五十嵐さ、久しぶりに地下室を見せてくれないか」
「いいよ。中川は知らないだろうし。うん、着いてきて」

五十嵐に促され、皆、二階から一階。そして地下室に移動する。
驚いた事に、部室に移動して無くなっているドラムセットの位置に、新しいドラムが置いてあった。

「あ、あれ。パパが新しいの買ったみたい」

みたいって。ドラムセットってポンと買える程安くはないだろ。ホント、何のお仕事をされているのか気になります。
五十嵐が分厚い扉を閉めると、こんな事を言い出すんだ。

「みんなさ、私のドラムソロ見た事無いでしょう。折角だから、ちょっと叩いてみるね」

そう言うと、タントンとまるでテストするかのように各部所を叩いていく。

「いい、行くわよ!」

スローテンポでリズムを刻み、小気味良く段々早くなる。そして超高速、圧倒的迫力のドラミングを俺達に見せつける。
俺達の知らない五十嵐。ビートルズのコピーだけでは収まりきらない。
それは小さい頃から楽器に触れる環境があったからとか、そういう事ではない。
天性の才能としか言いようが無かった。

叩き終わるとニコッと笑い「どうかな」と聞いてきた。
その問に答えたのは中川だった。

「正直、驚いている。ただの高校生ドラマーではないと思っていたが、思った以上のテクニックだ」

リクが続ける。

「僕はさ、ビートルズが出来たらそれ以上の事は望んで無かったのだけど、それって間違ってるんだって。この間のライブもそう。五十嵐さんのプレイもそう。一つ上を目指さないといけないって。そう感じてるの」

中川に改めて聞く。

「中川。俺は知っての通り、この夏から始めたばかりの初心者だ。俺を含め、俺達でオリジナルとかそういうの、出来ると思うか」

中川が言葉を区切って話す。

「音楽は(初心者だから)とかは、自信の無い奴の言い訳なんだ。もう気付いているはずだろ。俺達はやれば出来るんだ。ビートルズでもオリジナルでも。そうだろ」

『そうだ。中川の言う通りだ』
『そうでしょう。だから私も言ってるのに。自信持ってって』
『そうだな』

メグが声をあげる。

「ミヒロは、自分を過小評価してるかもなの。部長さんドシッと構えて、ね」
「ああ、どうやらそのようだ」

そこへ、五十嵐のお母さんが入ってくる。

「年越しそば、みんなの分出来てるから、部屋に戻ってね」

皆一同に明るい返事をした。


※※※※※


部屋に戻った俺達は、ズルズルとそばにありついていた。
五十嵐に話しかけてみる。

「このオードブルってお母さんが作ったのか」
「うん。みんな来るって言ったら、気合入っちゃったみたい」
「結構マメなんだね。お父さんは?」
「昨日はパパのバンドの人も来ていて、地下室で今年最後の!みたいなのやってたよ。今日は家に居ない。バンマスの人の家に行ってる」
「バンマスとかかっこいいな。俺達だと誰になるんだろ」

そう言うと箸も置かずに、皆無言で俺を指差す。

「は、はいぃ。やっぱ、そうなるんですね」

『やっぱ俺ってそういう運命なのかな』
『そうね。やっぱりそうかも~』
『やれやれ』

こうして、俺達(ビートルズ研究会)の年を越していった。