栞がとりついてから季節は夏から冬に変わり、そして新たな同好会を作るという。
そういう奇天烈な事柄の影には必ず栞がいる。背中を押す栞が。
それは誰も知る事は無いが。

そして数日経った29日ライブハウスの日である。
集合場所の公園に最初に来ていたのはリクだった。

「よう、リク」
「あ、ミヒロ君。早いね」
「お前もな。しっかし寒いな」
「今夜は雪になるかもって天気予報で言ってたよ」
「マジか。たまらんなぁ」

男二人が吹きすさぶ公園の噴水前でガタガタ震えてるところにやって来たのは、五十嵐だった。

「お、モテない男二人が震えてるねぇ」

一言多いぜ、ったく。

「お前、元気だな」
「寒くないでしょう。これくらい」
「いや、十分寒いのだが」
「何言ってんの、これくらい。男なんだからシャンとしなさい」

こいつは何でこんなに元気なんだ?
最後に来たのは、中川とメグのワンセット。
メグが言う。

「みんな待たせてごめんね。ここに居ても寒いし行こっか」

有難いお言葉です。
歩きながら中川に聞く。

「ライブハウスに出るのって、やっぱオリジナルでなければダメなのか?」
「もちろん、コピーバンドもあります。今日出演のバンドは皆オリジナルですが」
「って言う事は、出たいって言えば、俺達も出られるのか?」
「そうだな。その答えは、今日のライブを見れば分かるかと」

『どういう意味だ』
『中川君の言いたい事は何となく分かるけど』
『どういう事だ。教えてくれよ』
『それは、ライブを見れば分かるかもね』

いつも肝心なところで話しをはぐらかすな栞は。
メグが早足に先に進み言う。

「ここだよ、みんな。入ろー」

看板には【ライブハウスBEAT】とある。

思わず声に出してしまった。

「【BEAT】ってBEATLESから取ったのかな?」
「おそらくはリズムを刻むっていう意味でしょう。ちなみに、BEATLESは虫を意味する(BEETLES)に(BEAT)って言うスペルを混ぜたものなんだ」

中川はテクニックを持ってるだけでなく、こういう雑学にも長けている。

「僕、その話し知ってる。ジョンと当時メンバーだったスチュアートがつけたんだよね」

さすが、ビートルズヲタクのリクだ。話し出すと長くなりそうだ。

俺達にとって初めてのライブハウス体験だ。
扉の向こうにはカウンターが見える。
既にかなりのお客さんが入っている
それよりも目を引くのは、やはりステージだ。
決して広いとは言えないが、むしろその空間は様々なライブを生み出してきたんだろうなと思わせる感じだ。

中川が携帯で誰かと話しをしている。
しばらくして、「中川!」と声を掛けてきた一人の男性。
そして、中川とその男性が会話を始める。

「リハ、どうだった?」
「ばっちりよ。それで、こちらが例の同好会の方?」
「そう」
「来てくれて嬉しいよ。ゆっくりは出来ないから俺はこれで」
「ああ、俺達はこっちで見てるから」

中川はその男性を見送り、そして俺達に言う。

「彼が俺の先輩。吹部時代に世話になったんだ」
「お前って、馴れ合いは嫌だと言っておきながら、俺達とは普通にやってるよな」
「まぁ、面白そうだし」

まぁきっかけはメグなんだろうが、そこは触れないでおこう。