栞の笑顔が見たくて

さて、突然ですが。


あなたは幽霊の存在を信じていますか?
俺はと言えば、ガキの頃から全く信じてはいなかった。
お化け屋敷の幽霊は、単に脅かすだけのアトラクションだと思っていたし、映画や小説の中にしか出てこない。

そんな物だと思っていた。



その女性に会うまでは…



ねぼけまなこで階段を降りていた時、俺は思わず足を踏み外してしまった。

「うわ!」

っていう声。そして重力には逆らえず、大きな音と共に床に叩きつけられる……筈だった。

大した痛みは無い。何が起こったんだ?
後ろに人の気配。

『聞こえる?』
「大田か?悪い冗談はよせよ」
『私の声が聞こえるの?私が見えるの?』

そこに立っていたのは、白のブラウス、スカート姿の女性だった。

「お前は誰だ。何故そこに居る」
『私は栞。涼の姉です』

この家に来た時に目にした、あの仏壇の女性がフラッシュバックする。

おそらくは人間の本能だろう。声にならない声を出して走り出し、そして柱に頭を強打して、そのまま意識を無くした。


「ミヒロ、どうしたんだ!」


俺の周りにみんなが集まり、バタバタしているようだ。


……ん、ううん……ここはどこだ……


どうやら俺は救急車で運ばれているらしい。
あぁ、これって夢なんだな。

『良かった、気づいてくれて 』

……うう……声が出ない……

『心の声で会話してみて』
『心の声って、こうか?』
『うんうん、出来るじゃない 』
『お前はもしかして、仏壇にあった写真の……』
『そう』
『って事は、お前は幽霊とかそういうやつなのか?』
『そう、幽霊よ 』

なんてこった。よりにもよって幽霊とか。

『あのな、100歩譲って幽霊だとしよう。それにしては緊張感が無いと言うか緊迫感が無いと言うか』

『失礼ね。私これでも立派な幽霊よ 』

いや、そういう意味じゃ無くて。

『 じゃあ、お前はずっとあの家に居たのか』
『そう。とりつける人をずっと待ってたの』
『待て。今重要な事をさらっと言ったな。とりつくってまさか』
『そのまさかよ。私はこうして5年間とりつける人が来るのを待ってたの』
『他の奴じゃダメなのか。何で俺なんだ? 』
『何でって聞かれても。私の声が届いたのはミヒロが初めてだったの。それだけ』
『どうして俺のあだ名を知ってるんだ?』
『涼が言ってたから、覚えちゃった』
『それでは聞かせてもらおう。死んだのだよな。病気とか、事故とか?』
『うーん、デリカシーのかけらもないのね。まぁ、また時間がある時にゆっくりね。ほら、病院に着いたよ』


こうやって栞と会話している間、大田とおじいちゃん、おばあさんが着いててくれた。


※※※※※


検査が終わる頃には、意識もはっきりしてきた。軽度の脳震盪だそうだ。

とはいえ、安静の為に1日入院する事になった。
それから俺の親、大田のお父さんも来てくれた。
大田はお父さんに頭が上がらないみたいで、えらく怒られていた。
どうやら大事に至らず、皆一同に一安心。そんな感じだった。

時間も遅いので、母さんを残し皆帰宅する事になった。


そして、俺は無意識に眠りについた。