栞の笑顔が見たくて

「お邪魔します」

生徒会室の扉を開けると、生徒会長、及び生徒会員その一その二と言った先日のメンバーがそれぞれ席についていた。

「先日の同好会新設の件でここに来ました」
「そうなんですね。部員はこの四人でいいのでしょうか」
「はい」
「顧問の先生も決まりましたか」
「決まりました」
「そうですか。細かい事や分からない事は顧問の先生に聞いて下さいね。君、同好会新設の申込書を一枚出してください」

指示された生徒会員その一が、書類ケースの前に立つ。

「先日渡した物に同好会について書いてあったと思いますが、同好会は一般のクラブとは違い、部費は出ません。よろしいですか」
「はい。そこは把握しています」
「会長、これを」

会員その一が会長に一枚の紙を手渡す。
その紙をボールペンと共に手渡される。

「それでは記入欄に必要事項を書いてください」
「はい」

えっと、同好会名称。あ!
後ろを向いて、小声で名称を考えて無かった事を話す。

「おい、これどうするよ」

突然リクが声を上げて言う。

「ビートルズ研究会!」

「は!」「え!」「へ!」『ありゃ!』

それぞれおのおのの感嘆符をあげる。
それにしても、ここに来てへのリクの自己主張はある意味貴重だ。
俺は不服は無いが、他のみんなは?

どうやら全員一致のようだった。
申込書に記入していく。

「名称:ビートルズ研究会」
「部長:1年1組三田祐也」
「部員:1年5組沖田里久・1年2組五十嵐めぐみ・1年1組新田恵」
「顧問:草野先生」

これでよしっと。書類を会長に手渡す。
しばらくして、会長の顔が曇った。
会員その一・その二も申込書を眺める。
すっとんきょうな声で、会長が言う。

「これって……草野先生。ちゃんと引き受けたのですか?!」
「はい。ついさっきですが、先生の了承をもらいました」
「あの草野先生が、ですか」
「何か都合が悪いのですか?」
「そういう訳ではないのですが。そう言えば君は1年1組ですか?」
「はい、そうですか。何か」
「話題になっていたので、文化祭のステージ」

またそれかよ。

「草野先生に直接詰め寄って、視聴覚教室を使用した。まさかと思いますが、それってあなたですか?」

どうしてもこうなるんだな。

「そうです。あの時の俺です」
「なるほど、そういう事ですね」

どういう事だよ。

「草野先生は、あなたの事を気にかけていたようですよ。真っ直ぐに意見を言える生徒が1年にいるって」
「そうなんですか」
「君達でさえそこまで自己主張は出来ないだろ、って咎められました」

俺の知らないところで、そんなやり取りがあったとは。

「いいでしょう、同好会の件承りました。こちらに来てください」

会長は鍵を一つ手にし、こちらです。と言わんがばかりに生徒会室を後にする。

本校舎から離れ、講堂も通り過ぎたところに立っている、旧校舎。
その一階の一番奥にある元は何に使われていたのか分からない、生徒会室より少し広い部屋に通された。

「これから、ここを使って下さい。何かあれば草野先生に伝えて下さい。それから、鍵は預けておきます。無くないようにしてくださいね。鍵の管理も部長の仕事の一つですから。それでは私はこれで」

そう言って会長は出て行った。
最初に声を出したのは五十嵐だった。

「あは、狭くもなく広くもなく、しかも鍵もあるし。これならバンバン持ち込めるね」
「そうだな。これくらいがちょうどいいかな」

メグが言う。

「しっかし、やはりミヒロ大先生だよね。あの時の生徒会長の顔と来たら。それにしても、リク君がいきなり「ビートルズ研究会!」って言ったのはびっくりしたよ」
「俺もあの時はびっくりしたな。名前は、前もって決めていたのか、リク」
「あれは、将来そういう事が出来たらなって夢見てたの。まさかそんな日が、こんなに早く来るとは思ってなかったけど」
「でもな、リクのギター、俺のベース、五十嵐のドラム、マネージャーのメグ。これが俺達のスタートだ」
「あはは」

誰ともなく笑っていた。


『栞ってさ、気が付けば俺の背中を後ろから押してるよな。それも全力で』
『だって、ミヒロって元来リーダーの資質があるから』
『そうとは思えないけどな』
『ミヒロが楽しいとね、私も楽しいの』
『それは何となく分かるけどな』


これは、俺達は新しい第一歩でもあった。