翌日の昼休み。俺はいつものように大田と弁当をつついていた。
「ミヒロさぁ、バンドやってるんだって」
「誰から聞いたんだ」
「誰でもいいじゃん。でさ、どんな曲やってるんだよ」
お前も聞き覚えのあるビートルズだよ。って言っても分からんだろうが。
「ロックだよ、ロック」
「へぇ、ミヒロがねぇ。ふーん」
「なんだよ」
「似合わねえなって」
「お前のその卵焼き食ってやろか」
「冗談だよ、冗談」
俺がロックをやっているのは、似合うとか似合わないの問題じゃなくて、これはもう決定してる事であってだな。
しかも、その話しが独り歩きし始めてる事も事実であった。
「ミヒロ〜」
メグだ。
「今日も放課後、中庭でいいのよね」
「それはいいのだが、あんまり宣伝するなよ」
「分かってるって」
「どうだか」
※※※※※
『栞さぁ、俺思うんだけどこのままでいいんじゃないかなって』
『それだとリク君、可哀想だよ』
『まぁ、確かにな。どうしたもんだろうな』
『やっぱり中川君に頼むしかないかな』
『頼んで入ってくれそうにないぞ』
『それはそうだけど』
放課後、栞とそんなやり取りをしながら中庭に着いた。
そこには、リクとメグの姿があった。
「あれ、五十嵐は?」
メグが答える。
「うん。みゆきちゃんまだなの」
「まぁ、待つしかないか。リク、バンドスコア持ってるよな。ちょっと貸して」
「いいよ、ちょっと待って。はいこれ」
バンドスコアが出てくる。
芝生に腰を下ろし、パラパラとめくる。
「リクさ、ビートルズ以外にはどんなの聞いているんだ?」
「ディープパープルとか、クイーンとか」
「すまん。全然分からん」
「昔のロックは、今のアーティストもリスペクトしてるからね」
「へぇ、そうなんだ」
そんな話しをしているところに現れたのは、五十嵐ではなく……
「君達はいつもここに集まっているようだが、一体何をしているんだ」
スラッとしたスーツに細いメガネ。草野だ。何でまたこいつなんだよ。
「草野……先生。俺達はただここで遊んでいるだけです」
草野はメガネを直し、そして続けた。
「以前からここで何やらとしているようだが」
意を決し、言葉を返す。
「別に、俺達は先生に咎められるようは事はしていません!」
フッと何か笑みを浮かべる草野。
それが楽しい笑みなのか、苦笑いなのかは、俺には分からなかった。
リクとメグは後ろで小さくなってる。
「君達は音楽をやっているのか?」
どう答えるのがベストなのか、それさえ分からずにいた。
すると、俺にとって面食らうような事を草野が言い始めた。
「ビートルズか、いい趣味をしてるじゃないか」
リクのバンドスコアだ。
「私も君達の頃はビートルズをよく聞いていたものだ」
中指でメガネを直し。
「こう見えて、私もギターをやっていたんだ」
意外だ。
「大学に上がった頃には、色んな曲を聞いてはいたが。それでも私にとって、ビートルズは特別なんだ」
草野は何を言いたいんだ。
「君が手にしているのは楽譜。何か楽器をしているのか?」
そこまでの話しを聞いていて、メグがたまらず声をあげて話し出した。
「私達はビートルズのバンドをしてるの。わ……私は見ているだけだけど。同好会作ろうと思ってるの。部員は四人。あとは顧問の先生だけなんです」
メグが一気にまくし立てる。
「私達のバンドが風紀の乱れの元になるなんて思っていません。ただ、音楽を楽しんでいるだけです。私達は……私達は……」
メグ、お前が言おうとしてる事は、俺でも分かるぜ。
『栞、見ててくれよ』
『もちろん』
「メグ、俺に任せろ。先生、メグ。いや新田が言いたいのは、俺達全員の意見です。俺達は正式に同好会を立ち上げたいと思っています。顧問は先生なら、誰でもいいとは思っていません。先生も自分達の活動内容を把握出来る、そんな先生を」
草野はフッと微笑み、立ち向かうかのように目を付ける。
何でそう考えたのか分からないが、その時俺は草野に頼む事にした。
「草野先生。俺達の同好会の顧問になってくれませんか」
メグは虚をつかれた顔をしている。
「三田君、だったよね。なかなか骨のある生徒だとは思っていたが、ここまで私に食いついて来るのはなかなか居ない。面白いじゃないか。いいだろう、君達の顧問の話し受け入れよう。ただし」
そこまで言って、またメガネを直す。
「その同好会が学校に不利益と判断した際には、即座に私は顧問から降りる。それでもいいか」
まさか、草野が顧問を引き受けるとは。
リクとメグは複雑な表情だった。
「それとも、私では不服なのかな」
俺が答える。
「むしろ、願ってもない事です。顧問の件、よろしくお願いします」
「何も、固くならなくていい。私はサッカー部の顧問もしている。故に、同好会は兼任になる。あまり顔を出せないが、それでもいいか」
「はい。充分です」
ちょうどそこに五十嵐がやってきた。
「ごめんごめん。ちょっち遅くなっちゃった。って、あれ。何先生……ですか?」
「今日から同好会の顧問になった草野先生だ」
「顧問?!嘘、ホントに」
「あぁ、今決まったんだ。ですよね、草野先生」
「この子で全員か?」
「はい」
「だったら、生徒会室に行くとよい。部員が揃っている方がスムーズだぞ」
「ありがとうございます。早速そのようにします」
俺達は草野を残し、生徒会室に向かった。
五十嵐が聞いてくる。
「突然顧問が決まってて、びっくりだよ。どんな魔法使ったの」
「何もしちゃいねーよ。向こうからやってきた」
「向こうから?」
「リクさ、集合場所を中庭にしたのは正解だったな」
「まさか、こんな風に決まるなんて、思ってもいなかった。ミヒロ君のお陰だよ」
「言い過ぎだよ。なあ、メグ」
「そんな事ないよ。ミヒロ大先生が居たからだよ」
五十嵐がふくれっ面で言う。
「何よ、みんなで盛り上がって。もう」
「あはは。後で教えるから。もうそこだぞ。生徒会室」
俺、リク、メグ、五十嵐、そして栞。全員集合だな。
『栞、行くぞ』
『うん』
生徒会室の扉の前で、一つ深呼吸をした。
「ミヒロさぁ、バンドやってるんだって」
「誰から聞いたんだ」
「誰でもいいじゃん。でさ、どんな曲やってるんだよ」
お前も聞き覚えのあるビートルズだよ。って言っても分からんだろうが。
「ロックだよ、ロック」
「へぇ、ミヒロがねぇ。ふーん」
「なんだよ」
「似合わねえなって」
「お前のその卵焼き食ってやろか」
「冗談だよ、冗談」
俺がロックをやっているのは、似合うとか似合わないの問題じゃなくて、これはもう決定してる事であってだな。
しかも、その話しが独り歩きし始めてる事も事実であった。
「ミヒロ〜」
メグだ。
「今日も放課後、中庭でいいのよね」
「それはいいのだが、あんまり宣伝するなよ」
「分かってるって」
「どうだか」
※※※※※
『栞さぁ、俺思うんだけどこのままでいいんじゃないかなって』
『それだとリク君、可哀想だよ』
『まぁ、確かにな。どうしたもんだろうな』
『やっぱり中川君に頼むしかないかな』
『頼んで入ってくれそうにないぞ』
『それはそうだけど』
放課後、栞とそんなやり取りをしながら中庭に着いた。
そこには、リクとメグの姿があった。
「あれ、五十嵐は?」
メグが答える。
「うん。みゆきちゃんまだなの」
「まぁ、待つしかないか。リク、バンドスコア持ってるよな。ちょっと貸して」
「いいよ、ちょっと待って。はいこれ」
バンドスコアが出てくる。
芝生に腰を下ろし、パラパラとめくる。
「リクさ、ビートルズ以外にはどんなの聞いているんだ?」
「ディープパープルとか、クイーンとか」
「すまん。全然分からん」
「昔のロックは、今のアーティストもリスペクトしてるからね」
「へぇ、そうなんだ」
そんな話しをしているところに現れたのは、五十嵐ではなく……
「君達はいつもここに集まっているようだが、一体何をしているんだ」
スラッとしたスーツに細いメガネ。草野だ。何でまたこいつなんだよ。
「草野……先生。俺達はただここで遊んでいるだけです」
草野はメガネを直し、そして続けた。
「以前からここで何やらとしているようだが」
意を決し、言葉を返す。
「別に、俺達は先生に咎められるようは事はしていません!」
フッと何か笑みを浮かべる草野。
それが楽しい笑みなのか、苦笑いなのかは、俺には分からなかった。
リクとメグは後ろで小さくなってる。
「君達は音楽をやっているのか?」
どう答えるのがベストなのか、それさえ分からずにいた。
すると、俺にとって面食らうような事を草野が言い始めた。
「ビートルズか、いい趣味をしてるじゃないか」
リクのバンドスコアだ。
「私も君達の頃はビートルズをよく聞いていたものだ」
中指でメガネを直し。
「こう見えて、私もギターをやっていたんだ」
意外だ。
「大学に上がった頃には、色んな曲を聞いてはいたが。それでも私にとって、ビートルズは特別なんだ」
草野は何を言いたいんだ。
「君が手にしているのは楽譜。何か楽器をしているのか?」
そこまでの話しを聞いていて、メグがたまらず声をあげて話し出した。
「私達はビートルズのバンドをしてるの。わ……私は見ているだけだけど。同好会作ろうと思ってるの。部員は四人。あとは顧問の先生だけなんです」
メグが一気にまくし立てる。
「私達のバンドが風紀の乱れの元になるなんて思っていません。ただ、音楽を楽しんでいるだけです。私達は……私達は……」
メグ、お前が言おうとしてる事は、俺でも分かるぜ。
『栞、見ててくれよ』
『もちろん』
「メグ、俺に任せろ。先生、メグ。いや新田が言いたいのは、俺達全員の意見です。俺達は正式に同好会を立ち上げたいと思っています。顧問は先生なら、誰でもいいとは思っていません。先生も自分達の活動内容を把握出来る、そんな先生を」
草野はフッと微笑み、立ち向かうかのように目を付ける。
何でそう考えたのか分からないが、その時俺は草野に頼む事にした。
「草野先生。俺達の同好会の顧問になってくれませんか」
メグは虚をつかれた顔をしている。
「三田君、だったよね。なかなか骨のある生徒だとは思っていたが、ここまで私に食いついて来るのはなかなか居ない。面白いじゃないか。いいだろう、君達の顧問の話し受け入れよう。ただし」
そこまで言って、またメガネを直す。
「その同好会が学校に不利益と判断した際には、即座に私は顧問から降りる。それでもいいか」
まさか、草野が顧問を引き受けるとは。
リクとメグは複雑な表情だった。
「それとも、私では不服なのかな」
俺が答える。
「むしろ、願ってもない事です。顧問の件、よろしくお願いします」
「何も、固くならなくていい。私はサッカー部の顧問もしている。故に、同好会は兼任になる。あまり顔を出せないが、それでもいいか」
「はい。充分です」
ちょうどそこに五十嵐がやってきた。
「ごめんごめん。ちょっち遅くなっちゃった。って、あれ。何先生……ですか?」
「今日から同好会の顧問になった草野先生だ」
「顧問?!嘘、ホントに」
「あぁ、今決まったんだ。ですよね、草野先生」
「この子で全員か?」
「はい」
「だったら、生徒会室に行くとよい。部員が揃っている方がスムーズだぞ」
「ありがとうございます。早速そのようにします」
俺達は草野を残し、生徒会室に向かった。
五十嵐が聞いてくる。
「突然顧問が決まってて、びっくりだよ。どんな魔法使ったの」
「何もしちゃいねーよ。向こうからやってきた」
「向こうから?」
「リクさ、集合場所を中庭にしたのは正解だったな」
「まさか、こんな風に決まるなんて、思ってもいなかった。ミヒロ君のお陰だよ」
「言い過ぎだよ。なあ、メグ」
「そんな事ないよ。ミヒロ大先生が居たからだよ」
五十嵐がふくれっ面で言う。
「何よ、みんなで盛り上がって。もう」
「あはは。後で教えるから。もうそこだぞ。生徒会室」
俺、リク、メグ、五十嵐、そして栞。全員集合だな。
『栞、行くぞ』
『うん』
生徒会室の扉の前で、一つ深呼吸をした。
