数日後のとある昼休み。俺はいつものように大田と雑談をしていた。
そんなところに2組の五十嵐が俺の方に早足で近付いてくる。
「ミヒロ、今暇?暇よね。ちょっと来て」
そう言うと腕をグイッと引っ張り、教室から連れ出す。
「お、おい。五十嵐、どこへ行くんだよ」
「部員よ部員。ギターが弾けて、帰宅部って人が居るの」
「で、何で今なんだよ」
クラスのみんなの目が痛い。
大田なんかボケッとしてるし。
そして、2組の教室に入る。
「この子よ」
そう言って指差されたその生徒は、椅子に座ったまま訝しげに見上げる。
「何か用。うん?お前は確か……」
「俺の事はもういいよ。ところでさ、聞いたのだが、お前ギター弾けるんだって」
「中川はね。中学の時は吹奏楽部だったんだって。それで、ギターも弾けるって、吹部の友達から聞いちゃった」
「僕には、ああいう馴れ合いみたいなのは向いていなかったようだ」
「ね、条件ぴったりよね」
『おいおい、あからさまに迷惑そうな顔してんじゃん』
『そうね。無理強いは良くないかも』
「私達はビートルズやってるの。中川は、一番最後だからジョージね」
五十嵐よ。お前の辞書には(遠慮)と言い単語はないのか。
あのしおらしい五十嵐は何だったんだ。
「お前ら、何を勝手に決めてんだよ。バンドとかお断りだからな」
『ですよねー』
『それにしても、みゆきちゃんってホント強引よね』
「仕方ないわね。今度は沖田も連れて来ようかな」
人海戦術かよ。
「って事で、ミヒロもう帰っていいわよ」
「はいはい」
お役御免ですか。やれやれ。
身体の向きを変え廊下を見れば、1組の数人が窓からこっちを見てる。
みなさんは何をしておられるのですか?
人の噂とは怖いもので、(また1組の三田君が何かを始めている)と言う事で持ちきりなんだそうだ。
『これ以上、あんま目立ちたくないのだが』
『いいじゃない、減るもんじゃなし』
『いや、増えてんだよ』
『人望って感じね』
『本気で言ってねーだろ』
『あら、そーんな事無いよん』
『茶化すな。ったく』
1組に戻ると、メグが声を掛けてきた。
「ねえねえミヒロ、また何か企んでるの?」
「知らねーよ」
「そうなのかな?火のない所に煙は立たずって言うよね」
「そんなんじゃねぇよ」
「もしかして、この間のベースの本も、何か関係あるんでしょ」
ったく、当たりくじ引きやがって。
「お前はパーっとしたいんだよな」
「そうよ、美味しい話しを独り占めなんて許さないからね」
「気持ちは分かるが、また今度話す」
「なにそれ!今じゃダメなの」
教壇で先生が、わざとらしく咳払いをした。
※※※※※
放課後例の如く、俺・リク・五十嵐の3人は中庭に集合していた。
「さてみんな集まった事だし、私の家で練習しようか」
「そうだな。ここでブラブラしてるよりか、ずっといいかもな」
リクは、ビートルズのバンドスコアを熱心に眺めている。
「ちょっと沖田、人の話し聞いてる?」
「も、もちろんだよ」
「どうだかね。あ、そうだ、ミヒロ。あの後中川にちょっと話ししたんだけど、まるっきりやる気が無いみたいで」
「そりゃそうだろうよ。あれじゃ、やる気のある奴だってお断りするだろうよ」
「変な言いがかりつけないでね。これでも控え目に誘ってるんだし」
「あれでか」
「そうよ」
『五十嵐の脳みそは、一体どうなってやがんだ?』
『みゆきちゃんには、みゆきちゃんのやり方があるのよ。きっと』
そんな時だった。後から声がしたのは。
「ミヒロー」
「おう、メグ。どうした」
五十嵐が聞く。
「この子は?」
「俺のクラスメイト。新田恵」
「メグです。ってかさ。やっぱ何か企ててるじゃない。ミヒロ」
「そんなんじゃねぇよ」
「抜けがけは良くないぞ」
「メグはさ、楽器何にも出来なかったよな」
「全然。小学校の時にリコーダー吹いたくらいかな」
「じゃダメだな。俺達は、バンドをやろうと思ってるんだ」
「もしかして、ミヒロはベース?」
「そういう訳だ」
五十嵐が会話に入る
「ダメじゃないわよ、ミヒロ」
「え、何で?」
「マネージャーでいいじゃん。要は四人揃えればいいんだし」
「おい、待てよ。頭数揃えればいいってもんじゃないだろ」
「いいの。活動している方が、中川だって入りやすいでしょ。ね、メグちゃん」
「何だか分かんないけど、楽しければ全然OKよん」
「ほら、決まり。後は顧問だけね」
『何だかこの二人、息ぴったりですねー』
『いいじゃない。ミヒロも、みゆきちゃんやメグちゃんみたいに積極的になんなきゃ』
『お前な、これ以上有名人になるのは、御免こうむるぜ』
『こういうのは楽しまないとね』
何だか知らないうちに五十嵐とメグが盛り上がっているところに、リクがポツリと言う。
「部長は誰がするの?」
「部長?うーん、ミヒロでいいんじゃない」
五十嵐、お前な。
そして、メグも調子に乗る。
「ここはやっぱミヒロだよねー。ミヒロ大先生、よろしく!」
やれやれ。
なんだかんだ言って、その手の話しはこっちに回って来るんだよな。
『うふふ、良かったね。ミヒロ』
『良くねーよ』
『私もミヒロでいいかなって思ってる』
『何でそう思うんだ。言ってみろ』
『まず、リク君はギターはしっかりしてるけど少々頼りないでしょう』
『うむ』
『みゆきちゃんは、相手が先生でも暴走してしまいそうじゃない』
『むむむ』
『メグちゃんは、バンドの事あまり知らないし、ああ見えて気が弱いところがあるでしょう』
『…………』
『ほら、やっぱりミヒロしかいない』
『消去法か。これはこれは分かりやすいご丁寧な意見だな』
『あは、そうでしょ』
※※※※※
その後俺達は、いつものように五十嵐の家での練習だった。
ついさっき就任したばかりのマネージャーが俺に言う。
「ミヒロってば、こんな楽しそうな事、私に隠れてやっていたんだ」
「別に隠していたって訳じゃねーぜ。お前は楽器出来ないの知っていたからな」
「でもさ、小学校の時からの友達よね。水臭いって思わない?ねぇ、みゆきちゃん」
「そうよね。やっぱこういう事はみんなに知ってもらって。じゃないと、入る部員も入らないわよ」
このお二人は、どうやらウマが合うようだ。
『でも、みゆきちゃんの意見も分かるよ』
『栞までもが言うのか。考えてもみろよ。それでなくても文化祭の一件で、俺の知名度はうなぎ登りだと言うのに』
『頑張ってねー、部長さん』
『お前ってやつは』
メグが続ける。
「部長さん。こうなったらね、既成事実をつくっちゃえば?」
「既成事実ってなんだよ」
「こういう活動をしています。って大々的にやっちゃうの。それこそ、パーっと」
その話しに五十嵐が乗る。
「いいね、いいね。この際、パーっと」
「でしょでしょ。その方がいいわよね」
リクが腕を回して耳打ちをしてくる。
「ああなっちゃうと止まらないよ。しかも新田さんもあれだし」
「うーん、どうやらそうみたいだ。あの二人はある意味最強かもな」
「あんまり話しが大きくなると、生徒会から目を付けられるかも」
「確かにそれは良くないな。同好会の話しもご破産になったりとかな」
「でしょう。ミヒロ君、何とか言ってあげてよ」
今にも泣きだしそうなリク。
こうなりゃ、言うしかないか。
「やっぱさ、その既成事実とやらはマズいんじゃないか」
五十嵐が口を尖らせて言う。
「どうしてよ」
「とりあえず、生徒会は同好会の件もあるし、先生も黙ってはいないだろ」
「じゃあ、順序としてはまずは同好会を作るって事?」
「そうだな。同好会作ったら、部室でいくらでもガンガン出来るだろ」
五十嵐は自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「そうよね。やっぱそうよね。不本意だけど。仕方ないか……」
メグが口を挟む。
「私が入った事で、とりあえず四人揃ったのよね。あとは顧問だけって事」
「メグ、確かにそうだ。だけどな、こんな得体の知れない同好会の顧問なんて、引き受ける先生なんか居るか」
俺達は、大きな壁にぶつかっていた。
そんなところに2組の五十嵐が俺の方に早足で近付いてくる。
「ミヒロ、今暇?暇よね。ちょっと来て」
そう言うと腕をグイッと引っ張り、教室から連れ出す。
「お、おい。五十嵐、どこへ行くんだよ」
「部員よ部員。ギターが弾けて、帰宅部って人が居るの」
「で、何で今なんだよ」
クラスのみんなの目が痛い。
大田なんかボケッとしてるし。
そして、2組の教室に入る。
「この子よ」
そう言って指差されたその生徒は、椅子に座ったまま訝しげに見上げる。
「何か用。うん?お前は確か……」
「俺の事はもういいよ。ところでさ、聞いたのだが、お前ギター弾けるんだって」
「中川はね。中学の時は吹奏楽部だったんだって。それで、ギターも弾けるって、吹部の友達から聞いちゃった」
「僕には、ああいう馴れ合いみたいなのは向いていなかったようだ」
「ね、条件ぴったりよね」
『おいおい、あからさまに迷惑そうな顔してんじゃん』
『そうね。無理強いは良くないかも』
「私達はビートルズやってるの。中川は、一番最後だからジョージね」
五十嵐よ。お前の辞書には(遠慮)と言い単語はないのか。
あのしおらしい五十嵐は何だったんだ。
「お前ら、何を勝手に決めてんだよ。バンドとかお断りだからな」
『ですよねー』
『それにしても、みゆきちゃんってホント強引よね』
「仕方ないわね。今度は沖田も連れて来ようかな」
人海戦術かよ。
「って事で、ミヒロもう帰っていいわよ」
「はいはい」
お役御免ですか。やれやれ。
身体の向きを変え廊下を見れば、1組の数人が窓からこっちを見てる。
みなさんは何をしておられるのですか?
人の噂とは怖いもので、(また1組の三田君が何かを始めている)と言う事で持ちきりなんだそうだ。
『これ以上、あんま目立ちたくないのだが』
『いいじゃない、減るもんじゃなし』
『いや、増えてんだよ』
『人望って感じね』
『本気で言ってねーだろ』
『あら、そーんな事無いよん』
『茶化すな。ったく』
1組に戻ると、メグが声を掛けてきた。
「ねえねえミヒロ、また何か企んでるの?」
「知らねーよ」
「そうなのかな?火のない所に煙は立たずって言うよね」
「そんなんじゃねぇよ」
「もしかして、この間のベースの本も、何か関係あるんでしょ」
ったく、当たりくじ引きやがって。
「お前はパーっとしたいんだよな」
「そうよ、美味しい話しを独り占めなんて許さないからね」
「気持ちは分かるが、また今度話す」
「なにそれ!今じゃダメなの」
教壇で先生が、わざとらしく咳払いをした。
※※※※※
放課後例の如く、俺・リク・五十嵐の3人は中庭に集合していた。
「さてみんな集まった事だし、私の家で練習しようか」
「そうだな。ここでブラブラしてるよりか、ずっといいかもな」
リクは、ビートルズのバンドスコアを熱心に眺めている。
「ちょっと沖田、人の話し聞いてる?」
「も、もちろんだよ」
「どうだかね。あ、そうだ、ミヒロ。あの後中川にちょっと話ししたんだけど、まるっきりやる気が無いみたいで」
「そりゃそうだろうよ。あれじゃ、やる気のある奴だってお断りするだろうよ」
「変な言いがかりつけないでね。これでも控え目に誘ってるんだし」
「あれでか」
「そうよ」
『五十嵐の脳みそは、一体どうなってやがんだ?』
『みゆきちゃんには、みゆきちゃんのやり方があるのよ。きっと』
そんな時だった。後から声がしたのは。
「ミヒロー」
「おう、メグ。どうした」
五十嵐が聞く。
「この子は?」
「俺のクラスメイト。新田恵」
「メグです。ってかさ。やっぱ何か企ててるじゃない。ミヒロ」
「そんなんじゃねぇよ」
「抜けがけは良くないぞ」
「メグはさ、楽器何にも出来なかったよな」
「全然。小学校の時にリコーダー吹いたくらいかな」
「じゃダメだな。俺達は、バンドをやろうと思ってるんだ」
「もしかして、ミヒロはベース?」
「そういう訳だ」
五十嵐が会話に入る
「ダメじゃないわよ、ミヒロ」
「え、何で?」
「マネージャーでいいじゃん。要は四人揃えればいいんだし」
「おい、待てよ。頭数揃えればいいってもんじゃないだろ」
「いいの。活動している方が、中川だって入りやすいでしょ。ね、メグちゃん」
「何だか分かんないけど、楽しければ全然OKよん」
「ほら、決まり。後は顧問だけね」
『何だかこの二人、息ぴったりですねー』
『いいじゃない。ミヒロも、みゆきちゃんやメグちゃんみたいに積極的になんなきゃ』
『お前な、これ以上有名人になるのは、御免こうむるぜ』
『こういうのは楽しまないとね』
何だか知らないうちに五十嵐とメグが盛り上がっているところに、リクがポツリと言う。
「部長は誰がするの?」
「部長?うーん、ミヒロでいいんじゃない」
五十嵐、お前な。
そして、メグも調子に乗る。
「ここはやっぱミヒロだよねー。ミヒロ大先生、よろしく!」
やれやれ。
なんだかんだ言って、その手の話しはこっちに回って来るんだよな。
『うふふ、良かったね。ミヒロ』
『良くねーよ』
『私もミヒロでいいかなって思ってる』
『何でそう思うんだ。言ってみろ』
『まず、リク君はギターはしっかりしてるけど少々頼りないでしょう』
『うむ』
『みゆきちゃんは、相手が先生でも暴走してしまいそうじゃない』
『むむむ』
『メグちゃんは、バンドの事あまり知らないし、ああ見えて気が弱いところがあるでしょう』
『…………』
『ほら、やっぱりミヒロしかいない』
『消去法か。これはこれは分かりやすいご丁寧な意見だな』
『あは、そうでしょ』
※※※※※
その後俺達は、いつものように五十嵐の家での練習だった。
ついさっき就任したばかりのマネージャーが俺に言う。
「ミヒロってば、こんな楽しそうな事、私に隠れてやっていたんだ」
「別に隠していたって訳じゃねーぜ。お前は楽器出来ないの知っていたからな」
「でもさ、小学校の時からの友達よね。水臭いって思わない?ねぇ、みゆきちゃん」
「そうよね。やっぱこういう事はみんなに知ってもらって。じゃないと、入る部員も入らないわよ」
このお二人は、どうやらウマが合うようだ。
『でも、みゆきちゃんの意見も分かるよ』
『栞までもが言うのか。考えてもみろよ。それでなくても文化祭の一件で、俺の知名度はうなぎ登りだと言うのに』
『頑張ってねー、部長さん』
『お前ってやつは』
メグが続ける。
「部長さん。こうなったらね、既成事実をつくっちゃえば?」
「既成事実ってなんだよ」
「こういう活動をしています。って大々的にやっちゃうの。それこそ、パーっと」
その話しに五十嵐が乗る。
「いいね、いいね。この際、パーっと」
「でしょでしょ。その方がいいわよね」
リクが腕を回して耳打ちをしてくる。
「ああなっちゃうと止まらないよ。しかも新田さんもあれだし」
「うーん、どうやらそうみたいだ。あの二人はある意味最強かもな」
「あんまり話しが大きくなると、生徒会から目を付けられるかも」
「確かにそれは良くないな。同好会の話しもご破産になったりとかな」
「でしょう。ミヒロ君、何とか言ってあげてよ」
今にも泣きだしそうなリク。
こうなりゃ、言うしかないか。
「やっぱさ、その既成事実とやらはマズいんじゃないか」
五十嵐が口を尖らせて言う。
「どうしてよ」
「とりあえず、生徒会は同好会の件もあるし、先生も黙ってはいないだろ」
「じゃあ、順序としてはまずは同好会を作るって事?」
「そうだな。同好会作ったら、部室でいくらでもガンガン出来るだろ」
五十嵐は自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「そうよね。やっぱそうよね。不本意だけど。仕方ないか……」
メグが口を挟む。
「私が入った事で、とりあえず四人揃ったのよね。あとは顧問だけって事」
「メグ、確かにそうだ。だけどな、こんな得体の知れない同好会の顧問なんて、引き受ける先生なんか居るか」
俺達は、大きな壁にぶつかっていた。
