温暖前線がわずか数時間で吹き飛んだかのように、その日の放課後は一面青空だった。
放課後例の如く、リクと二人で居た。
ちなみに、先週リクの姿が無かったのは、風邪をこじらせていたらしい。
「ミヒロ君ってやっぱ凄いね。日に日に上達してるよ」
「そうか」
「やっぱり僕の目に狂いは無かったんだよ」
嬉しそうにリクが言う。
『なぁ、栞。お前楽しいか?』
『う、うーん。まぁ、楽しいよ』
嘘だ。こんな口振り普段はしない。
少なくともいつもの栞じゃない。
どうしたものか。
そんな時だった。一人の女性が近くに立っている事に気付いたのは。
リクが声を上げる。
「あ、あれ。五十嵐さん」
「沖田に用事があって来たのだけど、何で三田がいるの?」
「よう、また会えたな」
「五十嵐さん、今日部活は?」
リクの問いかけに少し間をおき、ぽつりぽつりと話し出す。
「私ね、辞めちゃった、部活。もういいの。あそこには戻れないし」
俺は思い切って話し出した。
「お前の言ってた(当て)って、リクの事だろ」
「そう。沖田がここで一人でやってるのは知ってたから」
「そっか。じゃあさ、軽音部では楽器何していたんだ」
「ドラム、やってた」
「ドラムだって!俺はベースなんだ。三人居ればバンド組めるじゃん。うじうじ悩んでねーで、ドラムでドカンとやっちまおうぜ」
何やら困り顔のリクが、俺の身体に近付かせ、耳打ちをする。
「ちょっとミヒロ君てば」
「なんだよ、リク」
「五十嵐さんはダメだよ」
「何故だ」
「暴走しちゃう」
「へっ?!」
しかし、時は既に遅かった。
五十嵐は表情を一転させ、腰に手を当て胸を張り、ピッと沖田を指で指す。
「決めた!」
「はい?!」
「今から私の家に来て。アンプとかはあるから。三田のベースは家なの?取りに帰って。」
「お、おい。行くのは構わないがあまりに唐突過ぎないか」
「こういう事は決めた時に行動するの。いい、行きましょう」
そう言ってずんずん歩き始めた。
今起きているのは、現実だよな。何なんだ、あいつは。
リクがぽそっと言う。
「だから言ったのに」
俺の知ってる五十嵐は、恋に破れた傷心の五十嵐だしな。
しかも、名前を知ったのも今日だし。
「あんた達何してるの。早く行くわよ!」
やれやれ。行くしかないか。
『あれ、おいおい。栞ってぱ』
栞は空いた口が塞がらず、ポカンとしていた。
※※※※※
五十嵐みゆき。1年2組。リクと同じく元軽音部。感情の起伏の激しい女子。
そして現在リクも含め、五十嵐の自宅に向かっている。
電車で二駅。徒歩五分。
通学するにはちょうどいいくらいの距離だ。
しかし、驚くのはその距離ではない。家だ。
凄いと言うしか形容詞が出ない。
とにかく、豪邸である。
一体、親御さんは何のお仕事をされているのでしょうか。
『栞、これって』
『行くしかないんじゃない』
『ですよねー』
五十嵐が扉を開く。
「さあさあ、上がって上がって」
「おじゃましまーす」
沖田がまた耳打ちをする。
「こうなったらもう止まらないよ」
「そんな事言ったって、俺だってまさかこうなるとは思ってなかったし」
五十嵐が声をかける。
「あんた達、何してるの。こっちよ」
そう言うと、廊下の奥にある下にくだる階段を、揃って降りていく。
『これってまさか』
『そのまさかのようね。地下室。私も初めて見るわ』
電気をつければ、そこにはドラムセット。他にアンプやエフェクター、マイクまで揃っている。
「何もたもたしてるの。やるんでしょう、ビートルズヲタク」
「う、うん。」
ヲタクと呼ばれたリクが、そそくさと準備にかかる。
そして、俺もそれにならう。
聞けば、お父さんが音楽が好きで、この家を建てた際に地下室を作ったらしい。
あれだ。要はお金持ちの道楽なんだろう。
その影響で、五十嵐も子供の頃からドラムに触っていたとか。
そして、その五十嵐のドラミングは、まさに凄まじい迫力だった。
五十嵐が言う。
「どうせあんた達、明日も暇なんでしょう。ここに来て三人で練習しようよ」
思わずリクと顔を見合わす。
「僕はいいけど」
「まぁ、いいか」
じゃ、もう1回合わすよ。
※※※※※
俺とリクは、とぼとぼと帰路についていた。
「ねえ、ミヒロ君」
「どうした?」
「僕ね、五十嵐さんって、どうも苦手なんだ」
「それは見ていれば分かるけどな。でもさ、悪い人じゃないんだし」
「そうだけど」
『栞、お前はどう思う』
『折角集まったんだし、リク君には悪いけど、このままがいいんじゃないかな』
『やっぱそうだよな』
『あとさ、前に同好会の話ししてたでしょう。詳しい話しを聞いてみたら?』
『そうだな』
「リクさ。前に同好会の話しをしてたじゃん。今度、生徒会に行ってみようぜ」
「確かに学校で出来たらいいけど」
「だろ。練習してるだけで宣伝になるぜ」
「そうだよね」
「まぁ俺としては、これ以上有名人になるのは、いささか気が引けるが」
「あはは、それもそうだよね」
お人好し・おせっかいの俺、ビートルズヲタクのリク、二重人格・超わがままの五十嵐。
集まってしまったものは仕方ない。
『まぁ、後は何とかなるか』
『うん、何とかなるよ。ミヒロはさ、もっと自分に自信持たなきゃ。ね』
『ね。ってお前なぁ』
『いいじゃない。ビートルズのバンド、応援してるよ』
放課後例の如く、リクと二人で居た。
ちなみに、先週リクの姿が無かったのは、風邪をこじらせていたらしい。
「ミヒロ君ってやっぱ凄いね。日に日に上達してるよ」
「そうか」
「やっぱり僕の目に狂いは無かったんだよ」
嬉しそうにリクが言う。
『なぁ、栞。お前楽しいか?』
『う、うーん。まぁ、楽しいよ』
嘘だ。こんな口振り普段はしない。
少なくともいつもの栞じゃない。
どうしたものか。
そんな時だった。一人の女性が近くに立っている事に気付いたのは。
リクが声を上げる。
「あ、あれ。五十嵐さん」
「沖田に用事があって来たのだけど、何で三田がいるの?」
「よう、また会えたな」
「五十嵐さん、今日部活は?」
リクの問いかけに少し間をおき、ぽつりぽつりと話し出す。
「私ね、辞めちゃった、部活。もういいの。あそこには戻れないし」
俺は思い切って話し出した。
「お前の言ってた(当て)って、リクの事だろ」
「そう。沖田がここで一人でやってるのは知ってたから」
「そっか。じゃあさ、軽音部では楽器何していたんだ」
「ドラム、やってた」
「ドラムだって!俺はベースなんだ。三人居ればバンド組めるじゃん。うじうじ悩んでねーで、ドラムでドカンとやっちまおうぜ」
何やら困り顔のリクが、俺の身体に近付かせ、耳打ちをする。
「ちょっとミヒロ君てば」
「なんだよ、リク」
「五十嵐さんはダメだよ」
「何故だ」
「暴走しちゃう」
「へっ?!」
しかし、時は既に遅かった。
五十嵐は表情を一転させ、腰に手を当て胸を張り、ピッと沖田を指で指す。
「決めた!」
「はい?!」
「今から私の家に来て。アンプとかはあるから。三田のベースは家なの?取りに帰って。」
「お、おい。行くのは構わないがあまりに唐突過ぎないか」
「こういう事は決めた時に行動するの。いい、行きましょう」
そう言ってずんずん歩き始めた。
今起きているのは、現実だよな。何なんだ、あいつは。
リクがぽそっと言う。
「だから言ったのに」
俺の知ってる五十嵐は、恋に破れた傷心の五十嵐だしな。
しかも、名前を知ったのも今日だし。
「あんた達何してるの。早く行くわよ!」
やれやれ。行くしかないか。
『あれ、おいおい。栞ってぱ』
栞は空いた口が塞がらず、ポカンとしていた。
※※※※※
五十嵐みゆき。1年2組。リクと同じく元軽音部。感情の起伏の激しい女子。
そして現在リクも含め、五十嵐の自宅に向かっている。
電車で二駅。徒歩五分。
通学するにはちょうどいいくらいの距離だ。
しかし、驚くのはその距離ではない。家だ。
凄いと言うしか形容詞が出ない。
とにかく、豪邸である。
一体、親御さんは何のお仕事をされているのでしょうか。
『栞、これって』
『行くしかないんじゃない』
『ですよねー』
五十嵐が扉を開く。
「さあさあ、上がって上がって」
「おじゃましまーす」
沖田がまた耳打ちをする。
「こうなったらもう止まらないよ」
「そんな事言ったって、俺だってまさかこうなるとは思ってなかったし」
五十嵐が声をかける。
「あんた達、何してるの。こっちよ」
そう言うと、廊下の奥にある下にくだる階段を、揃って降りていく。
『これってまさか』
『そのまさかのようね。地下室。私も初めて見るわ』
電気をつければ、そこにはドラムセット。他にアンプやエフェクター、マイクまで揃っている。
「何もたもたしてるの。やるんでしょう、ビートルズヲタク」
「う、うん。」
ヲタクと呼ばれたリクが、そそくさと準備にかかる。
そして、俺もそれにならう。
聞けば、お父さんが音楽が好きで、この家を建てた際に地下室を作ったらしい。
あれだ。要はお金持ちの道楽なんだろう。
その影響で、五十嵐も子供の頃からドラムに触っていたとか。
そして、その五十嵐のドラミングは、まさに凄まじい迫力だった。
五十嵐が言う。
「どうせあんた達、明日も暇なんでしょう。ここに来て三人で練習しようよ」
思わずリクと顔を見合わす。
「僕はいいけど」
「まぁ、いいか」
じゃ、もう1回合わすよ。
※※※※※
俺とリクは、とぼとぼと帰路についていた。
「ねえ、ミヒロ君」
「どうした?」
「僕ね、五十嵐さんって、どうも苦手なんだ」
「それは見ていれば分かるけどな。でもさ、悪い人じゃないんだし」
「そうだけど」
『栞、お前はどう思う』
『折角集まったんだし、リク君には悪いけど、このままがいいんじゃないかな』
『やっぱそうだよな』
『あとさ、前に同好会の話ししてたでしょう。詳しい話しを聞いてみたら?』
『そうだな』
「リクさ。前に同好会の話しをしてたじゃん。今度、生徒会に行ってみようぜ」
「確かに学校で出来たらいいけど」
「だろ。練習してるだけで宣伝になるぜ」
「そうだよね」
「まぁ俺としては、これ以上有名人になるのは、いささか気が引けるが」
「あはは、それもそうだよね」
お人好し・おせっかいの俺、ビートルズヲタクのリク、二重人格・超わがままの五十嵐。
集まってしまったものは仕方ない。
『まぁ、後は何とかなるか』
『うん、何とかなるよ。ミヒロはさ、もっと自分に自信持たなきゃ。ね』
『ね。ってお前なぁ』
『いいじゃない。ビートルズのバンド、応援してるよ』
