数日後の放課後。
俺はまた中庭に行ってみた。
しかし、リクの姿は見当たらない。
まぁ、あいつだって毎日って訳じゃ無いよな。
とぼとぼと、ここから講堂の方へ足を向けてみた。

『文化祭の時、ここを走り抜けたんだよな』
『そうそう。メグちゃんも涼も必死だったよね』
『でもさ。そのお陰でリクの演奏が聞けたんだから、世の中って不思議だよな』
『ホント、リク君の言う運命なのかも知れないね』
『うん?あれなんだ』
『あれって喧嘩じゃない』
『行こう』
『うん』

走り出した俺達が見たものは、二人の女子の激しい喧嘩だった。
とにかく止めないと。

「おい、お前ら何やってんだよ!」
「あんたには関係ないでしょ!」
「ほっとけないだろ、これじゃ」
「ほっといてよ。これは私達の事だから」

振り回した鞄が、校舎の窓ガラスを割る。
間に割って入れない。どうすんだよ、これ。

!!!

誰かが先生を呼んだか。
こっちに走ってくる。

「君達、何をしているんだ!」
「やべぇ、お前ら逃げるんだ」


※※※※※


どうやら逃げ切ったようだ。
二人の女子は息があがり、手を出せる状態ではなかった。

「理由を聞こうなんて事はしないが、少なくとも学校でするような喧嘩じゃないぞ」
「あんたには関係ないし」
「私、部活辞める」
「勝手にすれば。私帰る」

そう言って、片方の女子が足早に消えていった。

「言いたかったら聞くぞ。無理強いはしないけど」
「私……私……」
「無理しなくていいって。そう言えば部活辞めるって言ってたな。何部なのか。それくらいは教えてくれてもいいんじゃないか」
「軽音部……」

ひゃ、これはまた。
軽音部の大売出しかよ。
その子がゆっくり頭を上げ、俺の顔を見た。

「あんたって……確か……1組の……」

マジで俺有名人だな。笑うしかねーや。

「三田だよね」
「あぁ、間違ってない。三田だ。」
「私も合唱見たよ。放課後に練習してたよね。私2組だから」

まさかのお隣さんですか。

「講堂での発表も見た。私達の舞台は昼からだったから」
「昼からはお前も出たんだろ、舞台に」
「そう。でもその時に……。いいの。もう辞めるから。悲しいね。こんなのって」

泣きながら笑ってる。
こんな時、何て言えばいいのか、分からない。

『栞、俺何て言えばいいんだ』
『こういう時は、そっとしておいてあげる方がいいと思う』
『そっか』

「知ってるだろうけど、俺1年1組三田祐也。何かあればいつでもこいよ。な」

そう告げて、その場を離れる事にした。


※※※※※


『栞って、以前は喧嘩とかした事あるの』
『うーん、無いかな。パパにもママにも怒った事無いし』
『そうなんだ。確かお前のとこって、片親だよな』
『涼から聞いたの?』
『あぁ、詳しくは知らないが病気だと聞いた』
『小さい頃は家族みんな仲良しだったんだよ。私が小6の時に病気で。癌だったの』
『それまでの記憶はあるんだよな』
『今でも時々思い出すよ。優しいママの事を』
『お前には辛い過去なのかもな。ま、この先は聞かない方がいいかもな』
『ごめんね』
『また、話したくなれば、その時でいいよ』
『うん』

話しを逸らす事にした。

『それはそうと、さっきの子。大丈夫かな』
『何か思い詰めていたわよね』
『あれだけの喧嘩をする原因。うーん。彼氏の取り合いとか』
『彼女、部活を辞めるって言ってたから、取られちゃった方かもね。でもまぁ、こういう詮索するのって、いい趣味じゃないかも』
『そうだな』

ベッドに横たわり、またリクの居る中庭の事を考えていた。