翌日の昼休み。俺はリクから借りている教則本をパラパラと見ていた。
「ミヒロ、何読んでるの」
メグだ。
「これか?ちょっち訳ありでな。友達から借りているんだ」
「ベース?ミヒロが?ふーん」
「変か?」
「別に〜。いいんじゃない」
そんな時だった。委員長が声を掛けてきたのは。
「三田君。今日は掃除当番だからちゃんと残るように」
はいはい。
前回すっかり忘れていて、そのまんま帰ってしまったもんだから。
釘を刺しに来たって訳だ。
『そりゃさ。あの時は俺も悪かったって思ってるよ』
『本当にそう思ってるの?怪しいんだけど』
『お前だって忘れていたんだろ。知ってるなら一言言えばいいのに』
『何、その言い草。まるで私が悪いみたいじゃない』
『そんな事言ってねーだろ!』
『あれでしょう。ミヒロはさ。そもそも私が幽霊だからって嫌ってるんでしょう』
『何言ってんだよ、栞』
『もういい』
どうやら、ご機嫌ななめのようだ。
当番は本当に忘れていたんだし。
考えてみれば、栞は俺にとりついてからずっと傍にいる。
喧嘩なんかした事なかった。
俺にすれば大事な人に変わりない。
たとえ幽霊であっても。
怒るなよ、栞。
※※※※※※
放課後、掃除を終えた俺は、中庭に足を伸ばしていた。
「よう」
「あ、ミヒロ君だ」
「お前、いつもここでギター弾いているのか?」
「ここだと目立つかなって思って」
「メンバー集めかぁ」
「そう。同好会とかなら、掲示板にポスター貼れるのだけど」
「同好会かぁ。難しそうだな」
「あれ、ミヒロ君。今日、何だか元気ないみたい」
見抜かれているな。
俺は腕を振り上げて元気な素振りを見せた。
「ならいいのだけど。同好会を作れたら、学校で練習も出来るんだ」
「そうだよな。こうやって一人で弾いている分には問題ないだろうけど」
「ミヒロ君は、同好会作るって事、どう思う?」
「そうだな。両手を上げて賛成とは言えないかな」
「どうして」
「考えてみろよ。俺は規約や規則は知らんが、おそらくは何人かの部員は必要だろうよ」
「部員かぁ。2人じゃやっぱり無理かな」
「いっその事、ここでバンとやっちまうか」
「先生が飛んで来るよ」
「あはは、冗談だよ」
こんな時、栞ならどう考えるのだろう。
『栞、話しは聞いていたんだろ。どう思う、お前なら』
やはり、答えてくれない。
そんなに怒らなくていいのに。
「あ、そうだ。これも借りておいていいのか?」
そう言って、教則本を出す。
「それはあげるよ。そこに書いてある事は身につけてるし」
「そうか。夕べ少し練習したんだぜ」
「ミヒロ君ならすぐに上達するよ。ギターはいつからやっていたの」
「中学ん時に少し。でも、最近は全然弾いていなかったんだ」
「じゃ、センスいいんだね。うーん、学校でアンプで音出して練習したいね」
「リク、それは前途多難だな」
「やっぱり気長に仲間を探すしかないね」
栞の事が気になるので、今日は帰る事にした。
「すまないが、今日は帰るよ」
「うん。また練習しようね」
「じゃあな」
リクを残し帰路につく。
※※※※※
公園が見えてくる散歩道をうつむき加減で歩いている俺。
『いつまで膨れてるんだよ。俺だっていつまでもこんなの嫌だぜ』
『ごめん』
『栞!』
やっと出てきてくれた。
『俺さ、やっぱお前が居ないと調子が出ないぜ』
『ホントに?』
『あぁ、本当だよ』
『ミヒロ……』
『お前にとりつかれて、始めはさ違和感あったよ。でもな、今の俺にはお前が必要なんだよ』
『嬉しい……』
『だからさ、もう喧嘩はやめだ』
栞はふわりと身体を翻し、俺に向き合う。
『じゃあ、仲直りね』
じっと見つめている栞の顔が、ゆっくり近づく。
『小指を立ててみて』
言われるように、小指を立てる。
『じゃあ、もう喧嘩をしないおまじない』
栞も小指を立てて、俺の小指に重ね合わす。
『少し曲げてみて』
小指を曲げると、栞も同じように小指を曲げる。
これは約束の時の仕草だが、今の俺にはそんな事どうでも良かった。
『栞の笑顔を見ている時は、本当に幸せなんだ』
『私も同じ。ありがとう』
公園前の散歩道には、まるで二人しか居ないような。
そんな気がした。
「ミヒロ、何読んでるの」
メグだ。
「これか?ちょっち訳ありでな。友達から借りているんだ」
「ベース?ミヒロが?ふーん」
「変か?」
「別に〜。いいんじゃない」
そんな時だった。委員長が声を掛けてきたのは。
「三田君。今日は掃除当番だからちゃんと残るように」
はいはい。
前回すっかり忘れていて、そのまんま帰ってしまったもんだから。
釘を刺しに来たって訳だ。
『そりゃさ。あの時は俺も悪かったって思ってるよ』
『本当にそう思ってるの?怪しいんだけど』
『お前だって忘れていたんだろ。知ってるなら一言言えばいいのに』
『何、その言い草。まるで私が悪いみたいじゃない』
『そんな事言ってねーだろ!』
『あれでしょう。ミヒロはさ。そもそも私が幽霊だからって嫌ってるんでしょう』
『何言ってんだよ、栞』
『もういい』
どうやら、ご機嫌ななめのようだ。
当番は本当に忘れていたんだし。
考えてみれば、栞は俺にとりついてからずっと傍にいる。
喧嘩なんかした事なかった。
俺にすれば大事な人に変わりない。
たとえ幽霊であっても。
怒るなよ、栞。
※※※※※※
放課後、掃除を終えた俺は、中庭に足を伸ばしていた。
「よう」
「あ、ミヒロ君だ」
「お前、いつもここでギター弾いているのか?」
「ここだと目立つかなって思って」
「メンバー集めかぁ」
「そう。同好会とかなら、掲示板にポスター貼れるのだけど」
「同好会かぁ。難しそうだな」
「あれ、ミヒロ君。今日、何だか元気ないみたい」
見抜かれているな。
俺は腕を振り上げて元気な素振りを見せた。
「ならいいのだけど。同好会を作れたら、学校で練習も出来るんだ」
「そうだよな。こうやって一人で弾いている分には問題ないだろうけど」
「ミヒロ君は、同好会作るって事、どう思う?」
「そうだな。両手を上げて賛成とは言えないかな」
「どうして」
「考えてみろよ。俺は規約や規則は知らんが、おそらくは何人かの部員は必要だろうよ」
「部員かぁ。2人じゃやっぱり無理かな」
「いっその事、ここでバンとやっちまうか」
「先生が飛んで来るよ」
「あはは、冗談だよ」
こんな時、栞ならどう考えるのだろう。
『栞、話しは聞いていたんだろ。どう思う、お前なら』
やはり、答えてくれない。
そんなに怒らなくていいのに。
「あ、そうだ。これも借りておいていいのか?」
そう言って、教則本を出す。
「それはあげるよ。そこに書いてある事は身につけてるし」
「そうか。夕べ少し練習したんだぜ」
「ミヒロ君ならすぐに上達するよ。ギターはいつからやっていたの」
「中学ん時に少し。でも、最近は全然弾いていなかったんだ」
「じゃ、センスいいんだね。うーん、学校でアンプで音出して練習したいね」
「リク、それは前途多難だな」
「やっぱり気長に仲間を探すしかないね」
栞の事が気になるので、今日は帰る事にした。
「すまないが、今日は帰るよ」
「うん。また練習しようね」
「じゃあな」
リクを残し帰路につく。
※※※※※
公園が見えてくる散歩道をうつむき加減で歩いている俺。
『いつまで膨れてるんだよ。俺だっていつまでもこんなの嫌だぜ』
『ごめん』
『栞!』
やっと出てきてくれた。
『俺さ、やっぱお前が居ないと調子が出ないぜ』
『ホントに?』
『あぁ、本当だよ』
『ミヒロ……』
『お前にとりつかれて、始めはさ違和感あったよ。でもな、今の俺にはお前が必要なんだよ』
『嬉しい……』
『だからさ、もう喧嘩はやめだ』
栞はふわりと身体を翻し、俺に向き合う。
『じゃあ、仲直りね』
じっと見つめている栞の顔が、ゆっくり近づく。
『小指を立ててみて』
言われるように、小指を立てる。
『じゃあ、もう喧嘩をしないおまじない』
栞も小指を立てて、俺の小指に重ね合わす。
『少し曲げてみて』
小指を曲げると、栞も同じように小指を曲げる。
これは約束の時の仕草だが、今の俺にはそんな事どうでも良かった。
『栞の笑顔を見ている時は、本当に幸せなんだ』
『私も同じ。ありがとう』
公園前の散歩道には、まるで二人しか居ないような。
そんな気がした。
