文化祭が終わると、そこに待っているのは中間試験である。
言うまでも無く、夜になると栞先生の講義が始まる訳で。

『これってさ、試験の時にお前に聞けばいいと思うが』
『ズルはダメ。私が許さない』
『ですよねー』
『当たり前じゃない。馬鹿な事言ってないで勉強続けるわよ』

とはいえ、その(栞大先生)のお陰で、それなりの結果は出せた。
大田の憮然とした表情と言ったらな。


※※※※※


その日の夕食。

「祐也、試験の結果はどうだったの」

早速おいでなすった。

「今回は、今までの俺とはちょっと違うぜ」

答案用紙を見せると、母さんはまじまじと眺めて。

「うん。この調子で頑張ってね」

成績で褒められたのはいつ以来だろう。
兄貴にはすっかり離されてるけど、母さんもこうやって結果を見ればやはり嬉しいんだと思う。

「ごちそうさま」

そう言うと部屋に戻った。


※※※※※


『栞さ、この間買ったビートルズ聞くか?』
『うんうん、そうしよう』

コンポにCDをセットし、曲を流す。

『ねぇ、ミヒロ。ビートルズいいでしょう』
『そうだな。聞いた事無かったけど、ロックっていいもんだな』
『あ、この曲って、文化祭の時に演奏してた曲だよ』
『確かに聞き覚えはあるな』
『私、以前はね。ビートルズよく聞いてたんだよ』
『そうなんだ』

よくよく考えてみると、栞の生前の話って、あんまり聞いていない。
聞いちゃいけない事もあるだろうし。

『ミヒロさ、今度カラオケ連れてってよ』
『もしかして、ビートルズ歌えるとか?』
『歌えるよ。前はよく歌ってたし』
『そうなんだ。いいぞ。行くか』

それにしても、だ。
栞はいつものマイペース。
もしかしたら、こいつは遊びたい為だけにとりついたんじゃないか?

『何かんがえてるの?』
『何でもねーよ』


※※※※※


翌日の放課後、俺は真っ直ぐ近くのカラオケボックスに向かっていた。
驚く事に、栞の歌はマジで上手かった。

『勉強が出来て、歌も上手くて、いつも笑顔で。そして、謎の力を持ってる。お前、これって最強なんじゃないか』
『そんな事無いわよ。ミヒロ以外の誰とも会話出来ないし』
『確かにそれはそうだ。一つ聞いていいか』
『いいよ』
『お前は俺にとりついて、今幸せか』
『当たり前じゃない。私はね、ミヒロとこうして喋っているだけで楽しいんだから。』

部屋にはビートルズのカラオケが流れている。


ビートルズ。これはこれで終わる話しだと思っていた。
その時は。