俺達は、舞台裏に集まった。
合唱の参加を免除されている運動部のメンバーは、講堂周辺でビラ配りをしている。
5分前、校内アナウンスが流れる。

《まもなく講堂にて、1年1組の合唱の発表会が始まります。繰り返します。まもなく……》

『何だろ、この緊張感』
『大丈夫。ミヒロならきっと上手く出来るよ。頑張って』
『栞、お前はいつも俺を応援してくれるよな』
『だってミヒロの笑顔、可愛いんだもん』
『それは俺の台詞だって』
『始まるよ。ちゃんとそばに居るから』

生徒会の人の声が聞こえる。

「1年1組の方、舞台に上がって下さい」

顔をパンパンと叩き、行くぞ!と言って気合いを入れる。
舞台に上がると、明らかに昨日とは違う光景が、そこにあった。
埋め尽くされた客席、ざわめく会場、飲み込まれそうな雰囲気……

『ミヒロ、客席じゃなく、後ろを見て!』

栞だ。俺はその言葉ではっと我にかえる。
クラスのみんなは、既にスタンバイしていた。
大田が、メグが、他のみんなも親指を立ててゴーサインを出している。

生徒会の人が、マイクで話し出す。

《只今より1年1組による、合唱です。1曲目は……》

会場のざわめきが嘘のように鳴り止む。
鼓動が早くなる。

『ミヒロ、私がついているから』
『分かった』


指揮棒を立てる。
いつものようにカウントして、ゆっくり振り始める。
オーバーリアクションもいつもと同じ。
一杯の会場も気にならない。
みんなの歌声が突き刺さる。
講堂と言う大舞台の事すら、忘れている。
一瞬、円陣を組んでいた事が頭をよぎる。
今、本当にみんな一つになっている。
楽しいんだ。今俺、本当に楽しんでる!


曲が終わり、客席に振り返り、そして礼をした。
割れんばかりの拍手。
聞いた事もない拍手。
クラスのみんなで勝ち取った瞬間だった。
俺は、この事を忘れる事は無いだろう。
心からそう思っていた。

『ミヒロ、頑張ったね』
『お前のおかげだよ』

予定の二曲が終わり、俺達は舞台から降りた。
みんなそれぞれ満足した様子だった。

「やったね!」
手を取り、満面笑みのメグ。
大田も近寄り、拳を当てる。

見上げた空は、雲一つない晴天だった。