ベランダに出て405号室の方に顔を向けると、壁越しに斉藤さんと目が合う。
にこりと微笑みながら、軽く手を振っている。
壁一枚隔てたまま、二人最大限まで近付いた。
「こうしてみると案外近いもんですね。普通に手握れるじゃないですか」
そう言って握られた右手。
ぴくり、と体が揺れ、誤魔化しようがなかった。
「あ、すみません」
そんな私に斉藤さんが気付かないわけもなく、謝られて離れていく手。
斉藤さんにとってはなんでもないことでも、私にとっては色んなことが初体験で、いちいちドキドキせずにはいられない。
なんとなく気まずくなって、お互い目を反らした。

