二人の穏やかな日常


「あんたが鍵持ち歩かないからでしょ」
「は?」


普段から隆二が鍵持ち歩くやつだったら、あの日も小学校までひとっ走りすればそれで済んでた。


小さくため息を一つ吐き出してから、もうどれでも良いや、と適当にボタンを押してジュースを買った。
ミルクティーだ。


「前原さんまだ鍵見つかってないんですか?」
「そうなんですよ」


三人目的を果たしたところで、一緒にマンションまでの道を歩く。


斉藤さん、一歩が大きい。
大きいけれど、私や隆二にナチュラル合わせてくれていて。

そういうさりげない気遣いってやっぱり気持ち良い。


「何なんだよ鍵って」
「この間私が鍵なくして閉め出されたとき斎藤さん家に避難させてもらってたの。で、その鍵がまだ見つからなくて」
「ああ、だから百合お父さんに怒られてたの?」
「しーっ!」


こいつはまた余計なことを。

「怒られたんだ」と控え目に笑う斉藤さんになんとなくこっ恥ずかしくなって、思い切り隆二の頭をぶった。


「何すんだよ!」
「うるさい!大体あんたが常に鍵持ち歩いてる奴だったら私は小学校までひとっ走りしてすっと家に入れたんだってば!」
「俺のせいかよ自業自得だろ!」

「まあまあ二人とも」


私も隆二も素で姉弟喧嘩を始める手前だった。

ていうかお隣さんに止められるってどうなんだ情けない。