「話せば長くなるから話さない」
「お前日野さんのこと好きなんちゃうん?」


あおいはイライラした表情で俺を睨み付けている。


「……好きだよ」


俺だって、この怒りを悲しみを、どこかにぶつたい。


ネクタイを掴んで俺を見下ろす日野ちゃんの目が、忘れられない。思い出す度、胸が苦しくなる。

……あの瞬間に、もう全てが、どうでも良くなった。


「でも好きってだけじゃどうにもならないことだってあるんだよ」


ポケットの中から煙草とライターを取り出した。


「……煙草、止めたんちゃうん」
「もういいんだよ」
「……何があってん」


煙を吐き出す。

俺の横で、俺が吐き出した煙をぼんやり見上げていた、あの日の日野ちゃんの姿を思い出す。


「……別に」