次の日の昼休み、いつものあのベンチに座る日野雄大に向かって、深々と頭を下げた。
「昨日は、ごめんなさい。本当にありがとう」
ベンチに座っている日野雄大は、パチパチと瞬きをしてから不思議そうに私を見上げた。
無理もないかもしれない。
あの相合い傘の日以来、教室の外での日野雄大に「ごめんなさい」と「ありがとう」を言うのは初めてだったから。
まだ返事をしない日野雄大の隣に、ドスッと腰かける。
「勘違いしないでね。日野雄大が奴隷ってことは変わらないから」
横にいる日野雄大の方は決して見ずに正面に顔と視線を向けたまま言った。
日野雄大はペットボトルのミネラルウォーターを飲みながら、物珍しそうに見ている。
飲み終えてからペットボトルの蓋を閉めて、嬉しそうに頬を緩めた。
「分かってるよ。日野ちゃんがもういいって言っても、俺は日野ちゃんの奴隷だから」
「きもい。あんたもしかしてMに目覚めたんじゃないの?」
「あはは。そうかも」
何がそんなに楽しいのか、日野雄大の頬はゆるゆるだ。
私も、何がそんなに嬉しいのか、日野雄大の隣でこっそり頬を緩めていた。

