日野ちゃんは無表情でただ真っ直ぐ俺を見つめる。俺もその視線から決して目を離さない。

長い長い沈黙。アイスを持つ手が冷たい。

どれくらい経ったのか、日野ちゃんは震える声で言った。


「……変なこと、言わないで」


それだけ言うとまたアイスを食べはじめる。


「事実じゃん」
「わけ分かんない。頭おかしくなったんじゃないの?」
「おかしいのは、日野ちゃんだろ」
「……何なの?」


俺はただのクラスメートでしかないのに、こんなことを言う資格はないのに、ただ日野ちゃんが好きなだけなのに。

──日野ちゃんが、好きだ。


日野ちゃんの傷を癒したいと思うのは、許されない?

日野ちゃんに前を向いてほしいと思うのは、間違ってるのか?


「良い加減向き合えよ。颯太さんの死と」
「お兄ちゃんは死んでない」
「本当は気付いてんだろ?」
「……ちゃんと生きてて、私をいつも助けてくれるもん」


じわりと日野ちゃんの目に涙が浮かんでいる。


……泣くなよ。違うんだよ、日野ちゃんを泣かしたかったわけじゃない。

俺は、どうしたらいい……?
正解が、分からない。


途方に暮れて黙っていると、日野ちゃんがベンチから立ち上がった。