俺は自分勝手な男だ。
今日ほどそう思った日はない。
日野ちゃんのお母さんがどんな思いで十年間過ごしてきたのかを知っていて、涙を流している姿も見たのに。
「……日野ちゃんのお兄ちゃんの話、聞いたよ」
日野ちゃんはきょとんと俺を見つめる。
「お兄ちゃんの、話……?」
日野ちゃんの声に微かに緊張が籠る。
……なあ、本当はもう、気付いてるんだろ?
もう会えない、って。
もうこの世に居ないんだ、って。
どんなに颯太さんの姿を浮かべたってそれが現実になることはないんだ、って。
……日野ちゃん、いつまで自分を傷付けるんだよ?
──もう、いいだろ。
「日野ちゃんのお兄ちゃんって……死んでたんだな」