入学式で初めて日野ちゃんと会ったそのときから、普通なはずなのに、どこか儚げな子だなと思った。

何故か、すぐに消えてしまいそうな、そんな気がした。


無理矢理日野ちゃんのスマホを奪いあのムービーを消すのも、やろうと思えばできるかもしれない。

だけど何故か俺はそれをしない。
この奴隷関係を壊す気は、ない。


この関係が無くなってしまえば、俺と日野ちゃんは前後の席だけど、本当にただそれだけの関係になってしまうんだ。

……俺はそれが、嫌なんだ。


俺は日野ちゃんの言う通り、馬鹿なやつだ。ずるくて嘘つきで、性格の悪い男だ。



「話して下さってありがとうございました」


日野ちゃんのお母さんに頭を下げて、ソファから腰を上げた。

日野ちゃんのお母さんは俺を玄関まで見送ってくれて、俺はまた頭を下げた。